【獣医師監修】犬の歯石除去について|麻酔・無麻酔それぞれのリスクは?死亡事故に繋がった事例も
犬の歯石除去は麻酔をして行うのが一般的ですが、全身麻酔にはリスクも伴うため、無麻酔で歯石の除去を行っている動物病院もあります。しかし、無麻酔だからといって100%安心というわけではありません。麻酔の有無を問わず、歯石除去により死亡事故に繋がってしまった事例もあります。今回は、犬の歯石除去について詳しく解説するとともに、過去に起きた死亡事例を踏まえ、愛犬の歯石除去をする際に飼い主さんが考えるべきことも頭に入れておきましょう。
犬の歯石除去をする際の麻酔は「あり」「なし」どちらがいい?
犬の歯石除去に対する考え方は獣医師の間でも分かれます。そのため、犬の歯石除去を麻酔下で行う獣医師と、無麻酔で行う獣医師(※麻酔あり・無麻酔の両方をしている場合もあり)がいます。麻酔あり・無麻酔それぞれの見解について見ていきましょう。
麻酔ありで行うメリット
麻酔をして歯石除去をすることには、犬の肉体的・精神的な負担の軽減、細かな箇所まで処置が可能、口の中を傷つけるリスクが低いといったメリットがあります。
歯石除去には先端部が尖ったスケーラーを用いて行うことから、犬が嫌がって動いてしまうと口の中を傷つけてしまいます。加えて、犬にとって長時間、口を開けた状態を保たなければならないのは大きなストレスです。
そのため、麻酔をして体が動かない無意識下の状態で処置をすれば、口の中を傷つけるリスクが低いほか、痛みや恐怖を与えずに済むので、犬の肉体的・精神的な負担を軽減できます。
また、歯石除去は歯の表面だけでなく、歯と歯肉の間の歯周ポケット内も対象です。さらに、スケーラーで歯石を除去したあとは、歯の表面に細かな凹凸が残っているため、専用の研磨ブラシで歯の研磨(ポリッシング処置)をして歯石が付着しにくい歯にします。これらはとても細かい作業なので麻酔をしないとできません。
さらに、無麻酔下での処置のように犬が動かないように強く保定する必要がないため、強すぎる保定による事故も防げます。
このような理由により、多くの獣医師が歯石除去には麻酔が必要と考えているのです。
麻酔をして歯石除去を行うリスク(デメリット)は、無麻酔で歯石除去を行うメリットなので、次項で詳しくご紹介しましょう。
無麻酔で行うメリット・デメリット
無麻酔で歯石除去を行うメリットは、体への麻酔の負担やリスクがないことです。特に、高齢の犬は麻酔によるリスクが高まるので、麻酔なしでの歯石除去を希望する飼い主さんも少なくありません。
また、基礎疾患を持っている犬は、そもそも麻酔をかけられないということもあります。そのため、無麻酔での歯石除去を行っている動物病院もあるのです。
一方で、日本獣医学会や日本小動物研究会は、無麻酔での歯石除去は危険だとして警鐘を鳴らしており、実際のところ、無麻酔で歯石の除去を行うことを推奨していない獣医師はかなり多いと考えられます。
多くの犬は、口の中にスケーラーを入れると嫌がり必死に抵抗します。そのため、犬が動いてしまうと歯肉や舌、唾液腺や血管が容易に傷つきます。また、顎の骨を骨折したというトラブルも実際に起きています。
処置時の痛みや恐怖を我慢しなければならない状態は、犬にとって大きな苦痛です。嫌な記憶が残ってしまうと、普段の生活の中でデンタルケアをすることが困難になってしまうこともあり、実際に口を触ろうとすると極度に嫌がるようになったというケースも見られます。
加えて、先述の通り無麻酔では歯周ポケット内の歯石の除去ができず歯周病が進行していく可能性があることや、歯面研磨ができないので歯の表面に凹凸が残ったままとなり歯石がつきやすくなります。
このようなデメリットが多くあるため、無麻酔での歯石除去に対して否定的な見解があるのです。
全身麻酔による死亡率と歯石除去による死亡事例
犬の麻酔による死亡率は、健康な犬で0.05%、全身疾患がある場合は1.33%と報告されています。この確率が高いのか低いのかですが、参考までに国土交通省が2002年頃にとある会議で提示した資料には「人間が1年間で交通事故に遭う確率は0.9%」とあるそうです。(ただし、一生を80年と仮定した場合、「生きている間」に交通事故に遭う確率は53%になるそう)それを考えると麻酔による死亡率は極めて低いと言えます。とはいえ、残念ながら過去に死亡事故が起きているのも現状です。
歯石除去中に起こった死亡事例
無麻酔での歯石除去をしている途中で、以下のような死亡事故が起きています。
窒息により死亡
2018年に、ドッグデンタルハイジニスト(※)による無麻酔の歯石除去をしている最中に、11歳のチワワが死亡した事故が起きています。
原因は、チワワを仰向けにした状態で施術を行い、呼吸ができなくなってしまったことによる窒息死です。血液中に酸素が十分に供給されなくなり、歯茎の色が青紫に変色するチアノーゼが起きていたのにもかかわらず、適切な救命措置が取られなかったことによって亡くなってしまいました。
(※)ドッグデンタルハイジニストとは、犬の歯や口腔内の健康管理のスペシャリストです。人間の歯科衛生士のように、歯石除去をはじめとする口腔内のケアを行うことを主な業務としています。日本では民間の認定資格です。
獣医師の資格は持っておらず、この認定資格のみを有する人によって犬の歯石除去が無麻酔で行われるケースがありますが、獣医師の資格を持っていない者が、麻酔下、無麻酔に関わらず業務として歯石除去(医療行為)を行うことは違法であることや、万が一何かトラブルがあったときに対処する知識や技術を持ち合わせていないことから、日本獣医学会やアメリカ獣医歯科学会などが警鐘を鳴らしています。
歯石の除去はドッグデンタルハイジニストだけでなく、動物看護士やトリマー、さらには人間の歯科衛生士が行うケースもあるようですが、獣医師の資格がない者が対価を受け取って歯石の除去を行った場合、違法となります。
歯石除去後に起こった死亡事例
歯石除去の施術中だけでなく、施術後の死亡事故も起きています。
心不全が悪化し死亡
心不全の基礎疾患があり、日常的に投薬をしている状態の犬を歯石除去した後、心不全の兆候が見られたため酸素吸入を行い体調は回復。そのため帰宅となったのですが、帰宅途中に心不全が悪化し亡くなってしまいました。
原因不明で死亡
麻酔をかけて歯石除去を行い、施術後は至って元気だったものの、原因不明で翌日に亡くなくなってしまった事例も起きています。
犬の歯石除去でリスクを減らすために
愛犬の歯石除去に対して、どのようなことを検討するべきなのかを頭に入れておきましょう。
獣医師に施術をしてもらう
犬の歯石除去は、獣医師にお願いすることをおすすめします。先述した通り、無麻酔による歯石除去は、トリミングサロンなどでドッグハイジニストが行っていることもあります。ドッグハイジニストは、国家資格ではなく民間の協会が認定する民間資格で、4〜5日の講習を受け、数ヶ月のインターン研修を受けたのちに取得できるものです。
ハンドスケーラーの使い方や歯石除去の技術、施術における犬の扱い方などを学んでいますが、獣医学や獣医歯科の知識を十分に持った臨床経験豊富な獣医師とでは、大きな技術の差があると言っても過言ではないでしょう。また、ドッグハイジニストが動物の治療行為をするのは違法であり、不測の事態が起きた際にその場で適切な治療をすることは難しいでしょう。
歯石除去で犬が死亡する確率は低いといえども、ゼロではありません。そのことを考えると、獣医師にお願いしたほうが安心です。
なお、「犬の歯の専門家」「犬のデンタルケアのスペシャリスト」と謳っている人が歯石除去をしていることがありますが、「犬の歯科医」ではありません。犬の歯科医の国家資格はないので、誤解しないようにしましょう。
また、動物病院で歯石除去をすることになっても、実際に施術を行うのは動物看護師やトリマーであるケースも少なくありません。誰が施術者となるのか、事前の確認がとても重要になってきます。
セカンドオピニオン
麻酔下での歯石除去も無麻酔の場合も、メリットとデメリットがあるため、どちらにしたほうがよいのか迷う場合は、かかりつけの獣医師だけでなく、他の動物病院の獣医師にも相談してセカンドオピニオンを受けるのもよいでしょう。
セカンドオピニオンを受けることで、かかりつけの獣医師から勧められた選択肢が愛犬にとって最善なのかを確認できます。セカンドオピニオンも聞いたうえで決めれば、安心して施術をお願いすることができるでしょう。
愛犬の歯石除去は獣医師によく相談してから
多くの場合において犬の歯石除去は安全に行われていますが、過去には死亡事故が起きているのも事実です。麻酔下も無麻酔による施術も、それぞれメリットとデメリットがあります。それらを理解し、獣医師によく相談してから慎重に決めることが重要です。心配な場合は、他の獣医師のセカンドオピニオンも聞いてから決めるのがよいでしょう。
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この記事のライター
choco
シェルティとの生活に憧れる社会人です。みなさんの愛犬との暮らしがより豊かになるような情報を発信できたら、と思っています!
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