過剰摂取はNG!犬にとって必須ミネラル【リン】の適量って?
「リン」は、犬のエネルギー代謝にかかわる重要なミネラルの一つです。リンは、骨、筋肉、細胞膜の構成成分として重要な働きをしており、必須ミネラルですが、過剰摂取すると健康に影響を及ぼすことがあるため注意が必要です。特に、腎臓の機能が低下している犬にとっては最も気をつけたい栄養素でもあるのです。
今回は、必須栄養素でありながら摂取量に気をつけなくてはいけないリンについて、役割や過剰に摂取した際の弊害、不足した場合に起きる症状、適切な摂取量について解説します。
必須ミネラル【リン】の役割
リンは、犬の体を構成するのに必要なミネラルで、カルシウムの次に多く犬の体内に存在します。カルシウムやマグネシウムと結びつき骨や歯を形成したり、体内のさまざまな細胞に結びつきます。また、DNAやRNAなどの核酸、体の中でのエネルギー貯蔵物質であるATP(アデノシン三リン酸)など、体内での重要な成分を構成し、さまざまな代謝反応にも関わっています。さらに、体液の酸とアルカリのバランスを整え、心臓や腎臓機能の維持、神経伝達などにも関わる重要なミネラルなのです。
リンとカルシウムは密接な関係にある
犬にとって大切な栄養素であるカルシウムは、リンと結びつくことでリン酸カルシウムとなり骨や歯を形成する役割を担っています。リンとカルシウムは密接な関係で、この2つのバランスが崩れると犬の健康に影響を及ぼします。カルシウムとリンは、一般的に1:1~1:2を保つことが推奨されている比率で、リンが過剰になるとカルシウムの吸収が阻害されてしまうため注意が必要です。
リンを多く含む食材
リンは多くの食材に含まれている栄養素です。リンには有機リンと無機リンの2種類があり、肉類や魚類、卵、乳製品、豆類に多く含まれているのが有機リンです。一方、リン酸塩などとして食品添加物に使われているのが無機リンです。
有機リンが多く含まれる食材
有機リンは、肉(特にレバーに多い)、卵、煮干しなど骨ごと食べられる小魚、牛乳、豆乳、ヨーグルト、納豆、豆腐などに多く含まれます。犬の食事にはタンパク質を多く取り入れますが、タンパク質の多い食事には有機リンも多く含まれているのです。また、焼きのりやプロセスチーズ(カッテージチーズ、クリームチーズには少ない)にも多く含まれています。
- 肉(特にレバー)
- 卵
- 煮干しなどの小魚
- 牛乳
- 豆乳
- ヨーグルト
- 納豆
- 豆腐
- 焼きのり
- プロセスチーズ
無機リンが多く含まれる食材
無機リンは、加工食品の添加物として使われています。ハムやソーセージの原材料表をみると、リン酸塩と書かれているのをご存知ですか。リン酸塩は、ハムなどの加工品を固める結着剤や乳化剤、ph調整剤、酸味料などとして使われています。リン酸塩は、ドッグフードやジャーキーなどのおやつにも使われることが多い添加物です。ここで注意したいのは、リンが含まれる添加物を使用していても、リン酸塩などと表記されず酸味料、乳化剤、ph調整剤と書かれている場合が多くあること。そのため、気がつかないうちにリンを過剰摂取してしまう可能性があるのです。
過剰摂取で発症する病気
リンとカルシウムはお互いに作用しあうことで、犬の体に有効な働きをしますが、リンを過剰に摂取するとカルシウムの吸収を阻害し、骨を破壊する可能性があります。また、過剰に摂取し続けることで、血中のカルシウム濃度が上がる、ストルバイト尿石ができる、腎臓に負担がかかるなどの弊害が出てきます。
高リン血症
リンの過剰摂取から腎臓の機能が低下し慢性腎臓病を発症すると、尿へのリン排出量が減少するため、血液中のリン濃度が高くなります。高リン血症では、急速に血液中のリン濃度が上がり、低カルシウム血症や骨の異常である繊維性骨形成異常や筋肉や、臓器に硬い骨のようなものができる異所性石灰化が起こり、目が赤くなる、皮膚のかゆみ、筋肉・関節の痛みなどが出ることがあります。
動脈硬化
カルシウム、リンを過剰に摂取すると、血管に石灰化が起こり、動脈硬化を発症する可能性が高まるとされています。
慢性腎臓病
リンを長期にわたって過剰に摂取していくことで、腎臓の機能がだんだんと低下していく病気が慢性腎臓病です。血液検査で、クレアチニン、BUNの数値が上昇するのが腎臓病の指標です。シニアの犬や遺伝的に発症しやすいとされるシーズーやバーニーズマウンテンドッグに多く見られる病気ですが、近年、犬種問わず若い犬にも多く発症しているとされています。
慢性腎臓病は、初期の段階では目立った症状がないことから、気がついた時にはかなり進行した状態であることが多い病気として知られています。症状が進んでくると、多飲多尿、食欲がない、嘔吐するなどの症状が出始めます。一度破壊されてしまった腎機能は元に戻ることはないため、低タンパク低リン食などの食事療法や投薬が必要。進行を遅らせる治療が一般的で、一生付き合っていく病気となります。
欠如すると起こる問題
リンは多くの食材に含まれることから、家庭で暮らしている犬にリンが不足することはあまり考えられませんが、リンが不足すると元気がない、筋力の低下などの症状が現れます。
適量はどのくらい?
リンは、カルシウムと密接な関係にあるため、リン単体で摂取してもあまり意味がありません。6歳までの若い犬の場合は、1日にカルシウム100mg/kg、リン75mg/kgの摂取が推奨され、シニアになると腎疾患にかかる可能性が高くなるため、これより少ないカルシウム1:リン1の割合が推奨されています。
摂取する際の注意点
食材にも多く含まれているリン。肉食メインの手作り食やドッグフードの場合は、食事から摂取するリンで十分に足りているため、おやつや牛乳、ヨーグルトなどの乳製品の摂りすぎには注意が必要です。機能が低下してしまった腎臓は、二度と元には戻りません。慢性の腎疾患を発症すると、底タンパク質低リン食などの食事制限がかかってしまいます。腎臓ケアの療法食などは、肉類が制限されているため、食いつきが悪くなることもあります。肉類が大好きな犬のためにも、リンの過剰摂取には気をつけてあげることが大切です。
意外と摂取しているリンに注意
犬にとって食べることは何よりも楽しみなこと。そんな食べる楽しみを奪ってしまいかねないのがリンの過剰摂取です。リンは、犬の体にとって重要な働きをするミネラルで、リンがなければ生命維持ができないとも言われていますが、摂取量に十分に気をつけなくてはいけないのです。特に手作り食の場合、私たち人間感覚でメニューを考えてしまうとリンが多くなりがちです。また、グルメ志向の強いおやつにも注意が必要です。
リンを過剰摂取させないためにも、カルシウムとのバランスをよく考えて、適切な量を心あげてあげましょう。
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この記事のライター
komugi
都内で愛犬のビーグルと暮らしています。コロナ期間中に肥満体型になってしまった愛犬のために食事や運動について勉強をはじめました。面白い発見や愛犬家の皆様に役立つ情報があればどんどん発信していきます!
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