肥満細胞腫とは、犬の皮膚や皮下に見られる悪性の腫瘍です。犬の皮膚にできる腫瘍の中でもっとも発生が多いと言われています。悪性度の低いものから高いものまでさまざまです。

肥満細胞は免疫細胞の一種で、細胞内の顆粒にはヒスタミンやヘパリンといった様々な物質が含まれており、外部からの異物に対してアレルギー反応や炎症を起こす役割を持っています。「肥満細胞」という名称ですが、実際に肥満かどうかはまったく関係ありません。

この細胞が何らかの要因により腫瘍化し、どんどん増殖して皮膚や皮下にしこりを形成するのが肥満細胞腫です。しこりのサイズや硬さはさまざまで、皮膚に出現するのが一般的ではあるものの、肝臓や脾臓、リンパ節に転移するケースもあります。

肥満細胞が腫瘍化してしまう原因についてはよく分かっていません。どんな犬でも発症する可能性はありますが、特に中高齢の犬によく見られ、パグのほかにもゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバー、フレンチブルドッグ、ボクサーなどの犬種が好発犬種とされています。ただし、トイプードルやチワワといった犬種でもよく見られる病気です。

肥満細胞腫は基本的にほとんどが悪性ではあるものの、早期に発見することができ、しこりを切除することができれば完治する場合が多いと言われています。しかし、中には命に関わるケースもあるため、定期的な健康診断による早期発見が重要です。肥満細胞腫は症状の程度によってグレード1～3に分類されます。

最も悪性度が低いもので、皮膚の表面にできたしこりは大半が1㎝以下です。浸潤（※）もあまりしないため、外科手術で完全に切除することができれば治ると言われています。

※周りに広がっていくこと

悪性度は中程度ですが、グレード2の中でも悪性度の度合いはさまざまです。一般的には腫瘍を完全に切除できれば治ると言われています。しかし、全身の皮膚や肝臓や脾臓、リンパ節に転移することもあり、再発もしやすい状態です。

グレード2になると、周囲の組織への浸潤も見られるため、手術の際にはしこりだけでなくその周りも切除しなければいけません。

最も悪性度の高い状態です。成長が早く、急速に進行します。転移・再発ともにしやすいため、手術だけでは根治には至らないことがほとんどです。放射線治療や分子標的薬を用いた治療が行われることもありますが、治すのは難しいとされています。

肥満細胞腫は皮膚にしこりができるのが特徴です。しこりの大きさや形、硬さなどはさまざまではありますが、色はピンクや白、赤であることが多く、しこりの周りは脱毛し、かゆみも見られます。

先述した通り、肥満細胞は炎症を招くヒスタミンを分泌するため、しこりが刺激されることで腫瘍の周りが赤く腫れたり（ダリエ兆候）、内出血や元気不振、嘔吐、下痢、胃潰瘍、さらにはショック症状を起こすこともあります。

また、悪性度が高い場合には転移することも少なくありませんが、転移した場所によってさまざまな症状が現れます。

皮膚のしこりや赤み、脱毛、かゆみなどは他の病気でも見られる症状のため、見た目だけで肥満細胞腫と断定することはできません。そのため、針で腫瘍を刺して細胞を採取し顕微鏡で観察する「細胞診」が行われます。（細胞診は腫瘍が見られる際の検査として一般的なもので、この病気に限った検査ではありません。）

肥満細胞腫の場合には、ヒスタミンなどのさまざまな顆粒を含んだ細胞が確認できるのが特徴です。ただし、まれに細胞内顆粒が認められず別の検査が行われることもあると言われています。

この時点では悪性度がどのくらいなのかについては分からないので、手術後腫瘍を病理検査して1～3のグレードに分類します。

また、腫瘍が他の部位へ転移していないかや浸潤具合を確認するために、リンパ節への細胞診を行ったり、超音波検査、レントゲン検査、CT検査も行われます。

肥満細胞腫の主な治療法は外科手術です。全身麻酔をかけて腫瘍とその周辺の組織の切除が行われます。ただし、グレード2、3の場合には浸潤していたり転移しているケースも多く、摘出しきれず再発してしまうリスクが高いです。そのため、放射線治療もあわせて行い、腫瘍細胞の根絶を試みます。また、放射線治療は手術ができない場合の補助的な治療として行われるケースもあります。

腫瘍が全身に転移している場合や、全身麻酔のリスクが高いと判断された場合、悪性度が高く再発が疑われる場合などでは内科的治療が選択されます。主にステロイドホルモン剤や抗がん剤、分子標的薬といった薬が用いられ、痛みの緩和や進行を遅らせる緩和的治療です。

予後はグレードによって異なり、グレード1の場合は外科手術によって根治するケースがほとんどのようです。グレード2は転移していない場合には局所治療である広範囲の切除で根治すると言われています。ただし、グレード2の中でもリンパ節に転移しているケースでは再発することもあるので要経過観察です。グレード3の場合、完治は難しく、適切な治療が行われた場合でも生存期間は半年程度とされています。

肥満細胞腫ははっきりとした原因が分かっていないので、予防することは難しいです。しかし、肥満細胞腫は悪性腫瘍であり進行性のため、早期発見がなによりも重要になります。しこりは飼い主さんでも比較的気づきやすい異変なので、スキンシップも兼ねて日頃から愛犬の身体をよく触り、異変を見つけたらできるだけ早く動物病院を受診しましょう。

肥満細胞腫は悪性の腫瘍ではありますが、完全に切除することができれば術後の経過は比較的良好だと言われています。原因が判明していないので具体的な予防方法はありませんが、毎日のブラッシングの際には皮膚の状態を見るようにし、こまめに愛犬の身体を触ってしこりやできものなどがないかをチェックしましょう。

手術で腫瘍細胞を取り切れない場合や全身麻酔をかけられない場合など、その子の状況によっては外科手術ではなく放射線治療や内科的治療が行われます。緩和療法だと受け取られがちですが、肥満細胞腫はc-kit遺伝子に変異がある場合、分子標的薬という薬が有効であることが分かっています。

また、グレード3の場合、予後は思わしくないことが多いため、なかなか治療に積極的になれない心持ちになってしまうかもしれません。しかし、愛犬の生活の質をなるべく維持してあげるためにも、できることはなるべくしてあげられるといいですね。

普段から愛犬をよく観察し、違和感を覚えたら放置せずすぐにかかりつけ医に相談することが早期発見に繋がります。パグは飼い主さんに対して愛情深い性格をしているので、スキンシップをとるのが好きな子は多いです。コミュニケーションの一環として、ボディチェックを習慣にしましょう。

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