【獣医師監修】犬の腎不全という病気について|腎臓病の原因や治療法などまとめて解説します
皆さんは「腎不全」という病気についてご存知ですか?
犬も猫も人間にとっても、腎臓は血液中の老廃物を漉し取って、尿として排出するための重要な臓器です。腎臓は左右に1つずつあり、もし片方が機能を失っても、もう一方が機能を補います。しかし腎不全の場合は、片方だけ悪くなることもあれば、両方同時に悪くなることもあるため、非常に怖い病気だと言えます。
今回は犬の腎臓病・腎不全の症状・原因・治療法を解説すると共に、腎不全にならないためにできることをご紹介します。
犬の腎臓病・腎不全について
犬の腎不全は、原因や進行度合いによって大きく2つに分類されます。
1.急性腎不全(急性腎障害)
まず急性腎不全(急性腎障害)は、何らかの原因で急激に腎臓の機能が低下し、症状が急速に進行し、数日で命を落とすこともあるため注意が必要です。
もちろん適切な治療を早期に行うことで回復も見込めますが、症状があまりにも重かったり、病気の進行具合によっては、そのまま慢性腎不全へ移行してしまう恐れもあります。
2.慢性腎不全(慢性腎臓病)
一方、慢性腎不全(慢性腎臓病)の場合は、比較的緩やかなペースで進行していく腎臓病で、治療をしても根治することは難しいと言えます。適切な対症療法を行っていくことで、少しでも進行を遅らせることが治療の目的となります。
いずれにしても腎不全を発症してしまうと、飲水量や排尿の量が極端に増えたり、食欲減退や嘔吐、脱水症状などさまざまな身体症状を引き起こします。老廃物が尿として排出されないため、進行すると尿毒症になる恐れもあり、尿の色が非常に薄くなるのが特徴です。
初期症状
はじめのうちは、ほぼ無症状なのですが、腎機能が低下してくると次第に症状が現れ始めます。
<代表的な症状>
- 薄めの尿を大量に排出し、頻繁に水を飲む。
- 食欲がなくなる。食べたものを吐いてしまう。
さらに進行すると、体内の有害物質を尿として排泄できないため、尿毒症という状態になります。
他の犬や人間にうつる?
感染性の原因ではない場合が多いため、他の犬や人間にうつる確率は低いと言えます。しかし、腎不全の病態に至る原因のひとつとして、細菌やウイルスの感染による腎炎がある場合は、その原因疾患が他の動物や人間にうつる恐れはあります。
また、遺伝が関与する疾患として、腎臓の糸球体に障害をもたらす「ネフローゼ症候群」という病気があります。腎不全と症状もよく似ていて、腎機能を大きく低下させてしまいます。ネフローゼ症候群は、遺伝の他に感染症、腫瘍、免疫の病気から引き起こされるため、感染症が原因の場合は、他の動物にうつる恐れも考えられます。
犬の腎臓病・腎不全の原因は?
急性腎不全と慢性腎不全とでは発症原因が異なります。それぞれについて見ていきましょう。
急性腎不全の原因(1)
まず心臓から全身へ送られる血流の約20%は、腎臓へ運ばれています。しかし中毒性のある物質を摂取してしまった場合に、最も影響を受けてしまうのが腎臓なのです。それらの中毒性物質は血流に乗って腎機能の低下をもたらし、急性腎不全を発症するのです。 中毒性物質の代表的なものとして以下の物質があります。
- レーズンやぶどうなどの食物
- イブプロフェン・アセトアミノフェンなどの薬剤
- 農薬・除草剤などの化学物質や重金属など
急性腎不全の原因(2)
腎臓への血流低下や、腎臓そのものに問題がある場合が考えられます。例えば心臓に疾患を抱えていて、腎臓へ向かう血流が不足してしまう場合。敗血症や熱中症なども同様に血流の低下を招きます。
またレプトスピラ症などのように腎臓に細菌が感染した場合や、遺伝的要素に伴う免疫不全などが原因で急性腎不全を引き起こすことがあります。尿管や尿道などの尿路が閉塞することも原因となります。
慢性腎不全の原因
急性腎不全と違って慢性腎不全の場合は、はっきりと原因を特定することが難しいとされています。急性腎不全から移行してくる場合もありますし、老化に伴う腎機能の低下が引き起こすこともあります。また急性膵炎や子宮蓄膿症、糖尿病といった他の疾患が影響して慢性腎不全にかかる例もあるのです。
かかりやすい犬種や年齢
慢性腎不全は、特定の犬種がかかりやすいということはありませんが、年齢的にやはり腎機能が低下する傾向にある中高齢の犬がかかりやすい傾向があります。
犬の腎臓病・腎不全の治療方法
急性腎不全にかかると集中的な治療が必要となります。輸液療法がメインとなり、血中のナトリウムやカリウムといった電解質の調整、ph(酸性度)を正常に戻したりします。
一方、慢性腎不全の場合、失われた腎機能は元に戻りません。さまざまな症状を抑えて進行を緩やかにして、QOLを維持していくことが目的となります。輸液療法にプラスしてACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬を投与し、高血圧やタンパク尿を抑制することで腎臓の負担を減らすこともあります。尿毒症の原因物質を吸着する経口吸着剤が処方されることもあります。
また、リンやナトリウムを制限した療法食を与えるのですが、特定のナトリウムを摂取しないことで腎臓機能の延命効果があるとされています。腎臓の療法食はさまざまなメーカーから数多くの種類が発売されていますが、どんな食餌がその子に合うかはかかりつけの獣医師とよく相談して選択するのが良いでしょう。
治療にかかる費用
急性腎不全の場合、症状が軽くて入院の必要がない場合、1回の通院で1万円未満のケースが多いようです。しかし症状が重くて入院の必要があれば、さらに高額になることも予想されます。
- 入院費1日5千円で7日間の入院で3万5千円
- 薬剤の投与や輸液療法1万5千円
- 各種検査費3万5千円程度
1週間の入院で10万円近い費用がかかる計算になりますね。また慢性腎不全の場合は薬剤の投与、検査、療法食などの費用が一生涯続きますから、飼い主さんの負担は大変なものとなります。こういうときに保険に入っておけばよかった!とならないように、若くて健康なうちにペット保険の加入を検討しておくといいでしょう。
犬の腎臓病・腎不全を予防するためにできること
どの犬でも腎不全を発症する恐れはあります。最も効果的な予防措置のひとつとしては、腎臓に負担を掛けるような食材を与えないこと。また中毒性物質にも注意しましょう。過剰な塩分や高たんぱくな食材を摂取しすぎると、腎臓の働きがオーバーワークになってしまうため、バランスの良い食餌を与えるようにしましょう。
また高齢になるに従って発症しやすくなることから、定期的な検診は欠かせません。特に血液検査、尿検査は重要な項目となります。
再発の可能性は?
急性腎不全が治ったように見えたとしても油断は禁物です。腎機能が一度低下した子は再発の可能性があります。やはり栄養バランスの良い食餌と、治療後の経過観察の診察で定期的な血液検査、尿検査を行うことが大切になってくるでしょう。
愛犬の腎臓病・腎不全と診断されたら
特に慢性腎不全にかかってしまうと、愛犬の苦しさと同じくらい飼い主さんも辛い状況に置かれることになります。それは心理面でも経済面でも同じことが言えると思います。家庭の事情を考慮して、犬が若いうちに事前にペット保険に加入しておくことやペット用に貯金をしておくことなど、さまざまな病気になっても対応できるよう、少しでも負担を減らす対策を考えておくようにしましょう。
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この記事のライター
choco
シェルティとの生活に憧れる社会人です。みなさんの愛犬との暮らしがより豊かになるような情報を発信できたら、と思っています!
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