あげすぎはNG!犬に必要な栄養素【カルシウム】と必須ミネラル【リン】の密接な関係
人間にとって必要不可欠な栄養素の一つ、といえばカルシウムを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?そんなカルシウムは、犬の骨・歯・筋肉の形成にも重要な役割を果たす主要必須ミネラルの一つです。また、神経の伝達などの生体維持にも必要な役割を持っています。しかし、だからといってカルシウムが含まれている食べ物をたくさん与えてしまうのはよくありません。実は、摂り過ぎても少なすぎても体に良くない影響を及ぼします。今回は、犬に必要な栄養素、カルシウムが及ぼす影響や適切な摂取量、カルシウムが多く含まれる食材について解説します。
重要な栄養素【カルシウム】の役割
カルシウムは、体の中で最も多いミネラルで、骨の中に蓄えられています。カルシウム=骨を作ると思われがちですが、実はそれだけではありません。カルシウムは体の生理機能を維持する上で、とても大きな役割を果たしています。
カルシウムの働きは3種類
カルシウムの働きは、①骨を成する骨カルシウム、②血液中に含まれ筋肉や神経の調節、血液を固める手助けをする血液中のカルシウム(血清カルシウム)、③ホルモン分泌・神経伝達・筋肉の収縮・細胞増殖・細胞の維持など、体の中で重要な情報を伝達する細胞内カルシウムの3種類があります。
カルシウムの吸収には欠かせないビタミンD
カルシウムを腸管から効率よく吸収するために必要な栄養成分が、ビタミンDです。ビタミンDは、食材の他に「日光浴」や「ひなたぼっこ」で太陽の光を浴びることで作られる成分です。室内飼いが多くなっている最近では、日光を十分に浴びられない犬が増えてきています。また、飼い主の都合から夜に散歩をしている場合も、ビタミンD不足に陥りがちです。
カルシウムを吸収するために、1日最低でも10分は太陽に当たる時間を作ってあげることを心がけましょう。ちなみに、紫外線を浴びすぎると皮膚がんや熱中症のリスクを伴うので、1日30分以内がおすすめです。夏場や暑い日は、日光浴はさせないようにしましょう。
カルシウムとリンの関係とは
犬の体内でカルシウムが機能するためには、リンと結合する必要があります。リンは、犬にとって必須ミネラルの一つで、カルシウムの次に多いミネラルでもあるのです。カルシウムは、リンと結びつくことによってリン酸カルシウムとなり、骨や歯の成分を形成します。このカルシウムとリンはバランスよく摂取することが大切。推奨されている目安はカルシウム:リン=1.5:1で、カルシウムが不足しリンが過剰となると低カルシウム血症や高リン血症を発症する恐れがあるため注意が必要です。
過剰に摂取してしまったらどうなる?
カルシウムをたくさんあげないと!と思い、ついついおやつにも小魚などを与えてしまいたくなりますが、カルシウムは与えすぎによって思わぬ病気を引き起こします。特に、子犬への与えすぎは注意が必要です。
骨に異常が起きる可能性がある
骨を形成する上で欠かせないミネラルがカルシウムですが、過剰に摂取することで、骨や関節の異常や変形が起きることは近年わかってきています。特に、大型犬や子犬期にカルシウムを過剰に摂取することで、多発性の骨折や肥大性骨形成異常や股関節の異常、背骨の変形、手足の湾曲などの骨に関する疾患が報告されているのです。また、2~3歳で変形性脊椎症を発症したケースもあるため注意が必要です。
カルシウム不足で発症する病気は?
カルシウムは骨に貯蔵されますが、食事で摂取するカルシウムが不足すると、骨に蓄えられていたカルシウムが溶け出し、不足したカルシウムを補おうとします。犬の場合は、あごの骨から溶け出すと言われています。また、溶け出したカルシウムは血管に入り、細胞に運ばれ、細胞内のカルシウムが必要以上に増えるという状態になります。
低カルシウム血症
低カルシウム血症は、血液中のカルシウム濃度が低下することで発症する疾患です。原因はさまざまですが、主な症状として、元気がなくなる、食欲不振、筋肉のけいれん・硬直、テタニーと呼ばれるしびれやけいれんが起こります。
低カルシウム血症の原因
低カルシウム血症は、出産後の母犬に多く見られます。これは、子犬に多くのカルシウムを与えてしまうことで、母犬の血液中のカルシウムが大幅に減少することから起こります。特に、チワワ、トイプードル、シーズー、ポメラニアンなどの小型犬によく見られます。また、腎疾患、急性膵炎、副甲状腺機能低下症などの基礎疾患が原因となり、低カルシウム血症を発症することがあります。
栄養性二次性上皮小体機能亢進症
カルシウムの摂取不足や吸収不足によって起きる栄養性二次性上皮小体機能亢進症は、カルシウム不足からリンとのバランスが悪くなるために、上皮小体ホルモンが過剰に刺激される疾患です。この疾患を発症すると散歩や運動を嫌がるようになり、跛行、骨がもろくなることから起こす骨折、背中の湾曲などが症状として現れます。以前は、粗悪なフードの栄養不足から発症が多く見られた疾患ですが、ドッグフードのクオリティが向上した現在では減少してきているとされています。
くる病(骨軟化症)
大型犬の子犬の成長期に多い疾患で、ビタミンD不足、リンの過剰摂取、カルシウム不足などが原因で発症します。症状として、歩幅が狭い、スキップするように歩くなどがあり、骨が変形したり骨折しやすくなります。近年の手作り食ブームから、くる病を発症する犬が増えてきているとの報告もあるため、手作り食の場合はカルシウム不足にならないように気をつける必要があります。
歯周病の原因にもなるカルシウム不足
カルシウムが不足しているとあごの骨から影響を受ける犬は、歯槽骨と呼ばれる歯を支えているあごの骨が弱くなることで、歯と歯槽骨の間に隙間できてしまい、歯周病を発症する可能性があります。また、カルシウム不足から歯槽骨が溶けてしまい、歯が抜け落ちてしまうこともあるのです。
必要な摂取量はどれくらい?
カルシウムは、全ての筋肉の収縮に関わる大切な栄養素です。カルシウムが不足すると、生体機能が働かなくなり体に不調が現れます。犬にとっても不足させてはならない栄養素がカルシウムなのです。ただしカルシウムは、多すぎても少なすぎてもよくありません。
カルシウムが多く含まれる食材を知っておこう
カルシウムは、牛乳、ヨーグルト、ヤギミルクやチーズなどの乳製品、煮干しなど骨ごと食べられる小魚、桜海老、豆腐、納豆などの大豆製品、海藻ではひじきに多く含まれています。野菜では、小松菜、菜の花、水菜、切り干し大根などに多く含まれています。
また、カルシウムを効率よく吸収するために、ビタミンDが含まれる食材を一緒に摂取することも大切です。ビタミンDは、イワシ、サンマ、鮭やキクラゲ、椎茸などに多く含まれています。
リンより少し多めが目安
成犬では体重1kgあたり100mgのカルシウムと75mgのリンが適切な摂取量とされています。目安として、リン1に対してカルシウムが少し多めの1.2〜1.4程度と覚えておきましょう。
摂取する際の注意点
カルシウムは、骨に多く含まれていると思われがちで、骨を加工したおやつがたくさん販売されています。しかし、骨のおやつで下痢をする犬が多いのは、消化が悪い食材だからなのです。確かに骨製品にはカルシウムが豊富に含まれていますが、そればかりを与えていると過剰摂取となりかねません。カルシウムを与えるときには消化吸収しやすい食材を選び、リン、ビタミンDも一緒にとれる工夫をしてあげましょう。
また、ドッグフードを食べている場合は、フードの中に十分なカルシウムが配合されているため、骨などのおやつはもちろん、煮干などカルシウムが多い食材を与えるときは、与える量に注意が必要です。
上手に取り入れて愛犬の健康管理を
最近では、手作り食を始める方が増えてきています。手作り食ではついつい肉類を中心にしたメニューにしてしまいがちですが、牛肉、豚肉、鶏肉にカルシウムはほとんど含まれていません。カルシウムが含まれている肉類は、ラム肉と馬肉ですが、100gあたりの含有量は小松菜の僅か20分の1程度です。また、カルシウムは単体ではなく、リンをはじめとするミネラルやビタミンDとのバランスが大切な栄養素。そして、多すぎても少なすぎても健康に影響が出てしまうのもカルシウムです。犬は人間と比較すると、加齢によって骨粗鬆症を発症するケースは少ないのですが、健康な体を維持するために生涯を通じてカルシウムを上手に与えることが大切です。
この記事のライター
komugi
都内で愛犬のビーグルと暮らしています。コロナ期間中に肥満体型になってしまった愛犬のために食事や運動について勉強をはじめました。面白い発見や愛犬家の皆様に役立つ情報があればどんどん発信していきます!
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