【獣医師監修】命に関わる危険性も。犬に多い病気「胆泥症」について解説します
犬に比較的多く見られる「胆泥症(たんでいしょう)」という病気をご存知でしょうか?はっきりとした症状が現われないことが多い病気ですが、重症になると命に関わる危険性もあります。人間でも胆泥症に罹患することがあり、胆石の前兆であると考えられています。
本記事では、犬の胆泥症の症状や発症の原因、治療・予防法などについて解説します。
犬の胆泥症という病気について
脂肪の消化・吸収に重要な役割を果たす胆汁は、肝臓で作られた後に胆嚢にストックされます。食事を摂るたびに胆嚢は収縮し、貯まっていた胆汁は総胆管という管を通って十二指腸に放出されます。
胆泥症は、本来サラサラの液状である胆汁が、胆嚢の中で濃縮されることによって泥状になり、胆嚢から出てこなくなってしまう状態を言います。
胆泥症の症状
症状が軽度の場合には目立った症状が現れず、胆泥の貯留以外は健康体であることが多いようです。定期健診などの超音波検査で偶発的に発見されることもあります。
胆嚢から出た胆汁が総胆管に詰まるような場合には、食欲不振、発熱、嘔吐、腹痛、黄疸などの症状が現れます。総胆管が完全に閉塞するような重症なケースでは、胆嚢や胆管が破裂し腹膜炎を発症することもあります。その場合は、緊急手術が必要となります。
なお、病気でない健康体の犬でも、胆嚢内に胆泥が生じることはあります。超音波検査で胆泥が見られるからという理由で、必ず病気と診断されるわけではありません。その要因として、絶食状態、タウリン、メチオニンの不足などの報告があります。(※1)
他の犬や人間にうつる?
犬の胆泥症は伝染病ではないので、他の犬や人間にうつるという心配はありません。
胆泥症を発症する原因とは
胆泥が発生する要因については不明のことも多いですが、次に挙げるような病気が胆泥症の発症に影響を与えていると考えられています。
原因1・内分泌疾患
甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)などの内分泌疾患がある犬は、胆泥症を併発することがあります。胆嚢に影響を与えるような基礎疾患に罹患している犬は、特に注意を払う必要があります。
原因2・胆嚢炎
胆嚢炎はその名の通り胆嚢に炎症が起きる状態で、細菌感染によって発症するほか、腸炎・膵炎・肝炎・胆管炎など、胆嚢の近くにある臓器が炎症を起こした結果発症することもあります。
かかりやすい犬種や年齢
さまざまな犬種に見られる病気ですが、シェットランドシープドッグやミニチュアシュナウザー、コッカースパニエルなど、高脂血症になりやすい犬種に多く見られます。中高齢の犬に発症しやすいと言われています。
胆泥症の治療法は?
胆泥症はその治療方針が議論されており、大きく2つの考え方があります。1つは、症状が見られず重度の問題が起こる可能性が低いことから経過観察する方法、もう1つは将来的には総胆管の閉塞や胆嚢破裂などの問題が起こるという可能性を考え、積極的に治療する方法です。
最近の傾向としては、胆泥症の原因となる病気が発見され、症状が無く、肝臓にも問題がない場合には治療をせず経過観察となることが多いようです。
治療を必要とする場合
肝臓病や胆嚢炎、内分泌疾患などに伴い胆泥症を起こしている場合には、それぞれの原因に合った治療が必要です。また、胆汁分泌を促すため、ウルソデオキシコール酸、トレピブトンなどの薬剤を長期で服用します。
胆泥が貯留するとともに胆嚢が腫大していたり、総胆管閉塞により胆嚢が破裂する恐れがあるときには外科手術により胆嚢が切除されることがあります。
治療にかかる費用
動物病院によって費用に幅はありますが、胆泥症の治療にかかる費用は、診察やレントゲン検査、超音波検査、血液検査、内服薬など1回の診察で1〜3万円くらいかかると考えられます。外科手術による胆嚢切除が行われる場合には10万円くらいかかるでしょう。
胆泥症を予防する方法はある?
胆泥症を予防するには、日々の食餌管理や運動管理が重要となります。高カロリー・高脂肪の食餌には注意し、低脂肪食の食餌が推奨されます。
胆泥症の治療に適した動物病院で処方される療法食などもあるので、食餌選びに迷う方は、かかりつけの獣医師に相談すると良いでしょう。肥満を予防するためにも、適度な運動も大切です。
脂質代謝が苦手で高脂血症になりやすい体質をもつシュナウザーなどの犬種は、日頃から様子を良く観察しましょう。また、胆泥症の原因になり得る胆嚢炎や内分泌疾患を患っている場合には、きちんと治療することも大切です。
できれば、定期的な健康診断で胆泥症の傾向があるかどうかを見ておきましょう。方法としては、半年〜1年に1回程度の血液生化学検査を実施して、肝酵素の上昇や、脂質代謝の異常(トリグリセリド値や総コレステロール値の異常)がないかどうかをチェックしておきましょう。
同時に、レントゲン検査で胆石が形成されていないかのチェック、超音波検査で胆嚢の大きさは正常か、胆泥の量はたまりすぎていないか、胆嚢炎を起こしていないか、胆泥がサラサラの状態か、ドロドロ〜ネバネバの詰まりやすい状態か、などをチェックするとよいでしょう。
再発する可能性
胆泥症は、食餌内容の見直しや内服薬により改善が期待できる疾患ですが、治療中に投薬を中止してしまうと、高確率で再発します。胆嚢摘出手術を実施した場合には、再発の心配は無いですが、その後も定期的な血液検査や超音波検査を実施して、身体症状をよく見ていくことが求められます。
早期発見するために定期的な健康診断の受診を
胆泥症はあまり聞き慣れない病気ではありますが、犬では比較的よく見られる病気です。多くが無症状で見過ごされることが多い病気であるため、定期的な健康診断で早期に発見・対処できるようにしましょう。
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この記事のライター
choco
シェルティとの生活に憧れる社会人です。みなさんの愛犬との暮らしがより豊かになるような情報を発信できたら、と思っています!
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