日本における多頭飼育崩壊の現状|実例と法律・条例について

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テレビやネットのニュースなどで、犬や猫の多頭飼育崩壊について報道されることがありますが、それは氷山の一角と言えるかもしれません。多頭飼育崩壊は毎年一定数発生しており、多くの犬や猫が犠牲になっています。

今回は、日本の多頭飼育崩壊の現状と実例などを紹介します。責任のある飼い主としてペットの多頭飼いにまつわる実情を調査し、私たちが取れる行動を考えていきたいと思います。

日本における多頭飼育崩壊の現状|実例と法律・条例について

目次

  1. 多頭飼育崩壊とは
  2. 日本における多頭飼育崩壊の現状について
  3. 多頭飼育崩壊に対する指導・法律や条例は?
  4. 多頭飼育崩壊を増やさないために私たちが出来ること

    多頭飼育崩壊とは

    犬
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     明確な定義こそされていませんが、「多頭飼育崩壊」とは、同時に複数~多数の犬猫などの動物を飼育している環境下で、鳴き声や騒音・不衛生・悪臭、動物の逃走や徘徊などを発生させ、しまいには動物の健康までも脅かし、健全な飼育が不可能に陥っていることを意味します。

    英語ではアニマルホーディング(Animal Hoarding)といい、過剰に大量の飼育をする人のことをアニマルホーダーと呼ぶこともあります。 

    多頭飼育崩壊の実例

     日本においては、一般家庭による多頭飼育の他、繁殖・販売業者による多頭飼育崩壊によるトラブルが発生しています。トラブルの主な内容としては「不適正な飼養による犬猫の衰弱・死亡」「周辺住民の生活環境の悪化・生命への危害」が挙げられます。 

    一般家庭での実例

     2008年7月・静岡県小山町の一般家庭で、計90~120頭の犬を山間の集落から離れた小屋・敷地で飼育していたものの、飼い主の高齢や餌代不足で管理が行き届かなくなっている事例が報道されました。捨て犬や野良犬を集めて飼育した結果、大所帯となってしまい、多頭飼育崩壊に至ったという内容です。

    また、2009年8月に新聞報道された新潟県新潟市の一般家庭での実例では、自宅で延べ約300頭もの犬や猫を光の入らない木箱や配車など劣悪な環境で飼養したとして「不適正な飼養」が確認された実例もあります。

    繁殖・販売業者の実例

     繁殖・販売業者の事例では、2006年10月頃に広島県広島市で判明した悲しいニュースがありました。レジャー施設が閉鎖された後、犬管理業者が残された約540頭もの犬を飼育されていましたが、費用がかさんだ結果、衛生状態の悪化・給餌をしないといった対応が見られ、多くの犬が衰弱をしたという「不適正な飼養による犬猫の衰弱・死亡」に関するトラブル事例です。

    また、2009年12月に新聞報道された兵庫県尼崎市の事例では、繁殖・販売業者がブリーダーとして多数の犬を飼育していましたが、住宅街にある施設で約400頭もの犬を飼育していたため、1998年頃から周辺住民から騒音・悪臭について苦情が相次いでいた、という「周辺住民の生活環境の悪化」に関するトラブル事例もあります。

    日本における多頭飼育崩壊の現状について

    犬
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     2018年度の環境省調査によると、多頭飼育(動物2頭以上飼育)に関して、住民から苦情が寄せられた件数(世帯数)は、1年間で2,149世帯にも及んでいます。1自治体あたりの平均の苦情世帯数は20.5件となっており、1世帯も多頭飼育に関する苦情が寄せられなかった自治体があった一方で、最も苦情が寄せられた自治体の世帯数は201件にも及ぶ結果です。

    もしかすると自身の身近なところでも多頭飼育崩壊が起きているかもしれません。環境省の調査結果を基に、数字で現状を追ってみたいと思います。

    苦情のあった世帯の飼育頭数

     2018年度に苦情が寄せられた世帯における飼育頭数の内訳を見てみると以下の結果となっています。比較的少ない頭数2〜9頭に対する苦情件数がもっとも多くなっていますが、これはそもそも2〜9頭の犬を飼育している世帯が多いことが起因すると考えられます。

    苦情が寄せられた世帯の飼育頭数(2018年度)

    • 2~9頭:51.5%
    • 10~29頭:26.4%
    • 30頭以上:6.4%
    • 把握していない:15.7%

    苦情の内容は「不衛生・悪臭」がダントツ

     また、同じく環境省の都道府県・政令指定都市・中核市を対象とした2016-2017年のアンケート調査によると、苦情の内容として最も多いのは「不衛生・悪臭」で、次いで「逃走・徘徊」「鳴き声・騒音」と続く結果となりました。 

    多頭飼育の問題解決には年数がかかる

     更に2015年4月~2019年3月(過去5年以内)に発生した、もしくは2015年以前から2019年3月時点で継続している多頭飼育に関する問題について各自治体の個別事例を調査したところ、自治体が最初に多頭飼育の情報を把握してから解決するまでにかかる期間の平均年数は約3.0年という結果が出ており、苦情発生から解決までの期間が非常に長いということが分かります。

    2年以内に解決した事例が全体の82.1%に対し、10年以上経過している問題も5.2%存在し、最も古い事例では30年以上が経過していることも分かっています。 

    不適切な多頭飼育に陥る要因は計画性の欠如?

     多頭飼育者が不適切な多頭飼育に至った原因となった動物を入手した経緯としては「その他・不明」が45.1%と多くなっています。「その他」には、野良犬を拾ってきた事例、飼育者自身がブリーダーである事例、元々の飼育舎が死亡・入院して他の人が引き継いだ事例などが報告されています。

    そして問題のあった飼育者の大半は、飼育する動物に不妊去勢手術を施していないという状況であったことが分かっており、動物を複数飼育した結果、繁殖に繋がった事例や、放し飼いにした結果、屋外の動物と繁殖したことによって、不適切な多頭飼育に陥る事例が複数報告されています。

    多頭飼育崩壊に対する指導・法律や条例は?

    犬
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     多頭飼育崩壊に対する市や県による事後対応は、化製場法や動物愛護管理法による条例等による行政指導や勧告が行われ、最終的には行政と警察、獣医師会、保護・ボランティア団体などの協力を得て解決を図ります。 

    自治体・警察等による指導状況は?

     近隣住民等からのクレームによって多頭飼育崩壊を発見した場合、口頭・文書で行政からの指導・勧告等が行なわれるのが一般的ですが、指導を行ったうちの約64%が「改善」「一部改善」「改善中」となっているものの、残りのうち約15.4%は「不適切な状態が継続してる」もしくは「悪化傾向」という残念な結果も見られます。

    一般飼育者・動物取り扱い業者共に多頭飼育崩壊に至ってしまうと、地域住民との隔絶や経済的困難などが伴うため、指導や勧告だけでは解決が難しいのが現状です。 

    多頭飼育崩壊を未然に防ぐ法律・条例は?

     あまり聞きなれない名前ですが、日本には「化製場等に関する法律(化製場法)」があります。「化製場法」9条には、指定地域内で多頭飼育・収容するためには、都道府県や保健所設置市の許可を要するという内容が書かれており、それを受けて一般住民との関係性が深い都道府県(⇒市区町村に移譲されていることも)の条例によって飼養施設の構造に関する公衆衛生上の基準・許可を要する飼育頭数等が定められています。

    一方で、逆に飼養施設の設備が条例で設定された公衆衛生上必要な基準を満たしている場合には、仮に施設管理者の経済状況が著しく低かったとしても、許可を行なう必要があるため、多頭飼育崩壊の要因の1つである“経済的困難”に陥る事態を避けにくいことが指摘されています。

    そもそも「化製場法」が作られた目的は、獣畜の加工製造場や死亡獣畜取扱場を規制するためのものであり、9条では規制対象を広げて設定していますが、犬猫のようにペットを飼育することを考慮された法律ではありません。そのため、犬猫などのペットが健やかに暮らすという観点がなく、実質多頭飼育崩壊を未然に防ぐ法律はまだまだ未整備である、と言えます。

    多頭飼育崩壊発生後の措置に繋がる法律・条例は?

     動物愛護管理法25条では、多頭飼育に起因する問題への対応が定められています。多頭飼育によって周辺の生活環境を損なう事態が生じている場合に、都道府県や指定都市は解決のために必要な措置をとるように勧告できるというものです。また勧告に従わない場合には改善命令を発することもでき、命令に違反すると50万円以下の罰金が科せられます。

    動物愛護管理法9条においては、以下の内容が定められていますが、任意の規定となっているため、届出制の導入自体は各自治体の判断にゆだねられています。

    動物愛護管理法・第9条(地方公共団体の措置)

    地方公共団体は、動物の健康及び安全を保持するとともに、動物が人に迷惑を及ぼすことのないようにするため、条例で定めるところにより、動物の飼養及び保管について動物の所有者又は占有者に対する指導をすること、多数の動物の飼養及び保管に係る届出をさせることその他の必要な措置を講ずることができる。

    各自治体の届出制に関する問題

     各自治体の届出制の仕組みは、多くの場合、施設ごとに対象となる動物が一定の頭数を超えた時点で自治体に届出を行なう必要がある形式となっており、多頭飼育をしている状態になった後に情報提供をするものとなります。

    そのため、多頭飼育崩壊になり得る状態を防ぐための対策としては効果的ではないと言えます。この届出制のルールは、無届の場合には罰金が科せられているケースもありますが、努力義務となっている自治体もチラホラあります。

    届出制を採用している自治体割合(2019年度環境省調査)

    • 届出制度有り:22.2%
    • 届出制度無し:76.8%

    多頭飼育崩壊を増やさないために私たちが出来ること

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     まだまだ法や条例の整備が整っていない中で、行政や警察・ボランティアの方々の協力によって多頭飼育崩壊への対応が行われています。多頭飼育崩壊がなくならない原因はいくつか考えられますが、ひとつには飼い主の避妊・去勢などに対する知識・認識不足も挙げられます。一人の飼い主が生涯同時に暮らせる犬の頭数には限りがあり、犬が好きだからと雄雌の区別なく同居させると、瞬く間に頭数が増えていってしまいます。

    避妊や去勢は動物虐待だという意見もありますが、そのために多頭飼育崩壊となれば、多くの犬猫を不幸にすることになってしまいますので、その点もよく考えて、飼い主として飼育環境の整備はもちろん、避妊・去勢の選択について後悔のない判断ができるといいですね。

    参考文献

    環境省省「令和元年度 社会福祉施策と連携した多頭飼育対策推進事業」アンケート調査結果の概要
    日本都市センターによる論文「多頭飼育崩壊への自治体の法的アプローチ」

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    komugi

    都内で愛犬のビーグルと暮らしています。コロナ期間中に肥満体型になってしまった愛犬のために食事や運動について勉強をはじめました。面白い発見や愛犬家の皆様に役立つ情報があればどんどん発信していきます!

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