犬のがんの症状は?早期発見するためのチェック項目や治療までの流れ
犬の高年齢化に伴い、がんになる犬も増えています。
愛犬ががんになってしまったら、飼い主さんとしては自分一人では抱えきれないほどのショックを受けるでしょう。この記事では、犬のがんの症状について解説します。
早期発見のためのチェック項目や治療までの流れも紹介しているので、愛犬の体調に異変を感じている、愛犬ががんと診断された飼い主さんはぜひ参考にしてください。
犬も人間同様にがんになる
「犬もがんになるの?」と思われるかもしれませんが、犬も私たち人間同様にがんになります。
がんの原因は細胞の異常増殖なので、若くても発症しますが、年齢を重ねるほどなりやすい病気です。
また、ひとことに「がん」といっても、身体にできるがんは良性と悪性の2種類に分かれます。
最後に検査や治療の流れについても解説していますが、良性のがんは進行や治療法が異なる場合もあります。
この記事では悪性のできものに対して「がん」と記していることをご留意ください。
犬におけるがんの種類と症状
犬のがんの種類には主に以下のものがあります。
- 皮膚
- 消化器
- 腹部
- 泌尿器
- 呼吸器
- 胸部
- 生殖器
- 血液
それぞれの場所にできたがんの種類と症状について見ていきましょう。
皮膚のがん
皮膚は身体の表面を覆っているため、皮膚のがんは身体のさまざまな場所で発生します。
以下が皮膚にできる主ながんの種類です。
<皮膚のがんの種類>
- ・肥満細胞腫
- ・軟部組織肉腫
- ・脂肪腫
- ・組織球腫
- ・リンパ腫
<症状>
しこり
検査により腫瘍の種類が判別されますが、脂肪腫や組織肉腫など、心配のないものもあります。
症状としてはしこりです。
しこりは種類によって急激に大きくなったり出血したりして潰瘍化するものもあるので、発見してから観察していくことが必要となります。
消化器のがん
消化器は口から胃腸、肛門までの食べ物が通る器官です。
消化器にできるがんには以下の種類と症状があります。
<消化器のがんの種類>
- ・口腔内腫瘍(メラノーマ、扁平上皮がん、線維肉腫)
- ・胃がん
- ・小腸がん
- ・大腸がん
- ・リンパ腫
- ・肛門周囲腺種
- <症状>
- ・吐き気
- ・食欲不振
- ・下痢
- ・血便
- ・体重の減少
- ・肛門周り:しこり
- ・口腔内:しこり、よだれ、口臭など
- 口腔内や肛門周りのがんは目でしこりの確認ができますが、消化器に関しては吐き気や食欲不振などが確認されます。
- 複数の症状が併せて出ている場合や長引く場合、病院の診察を受けましょう。
腹部のがん
腹部のがんは肝臓や脾臓を指し、がんの種類と症状には以下のものがあります。
<腹部のがんの種類>
- ・肝臓がん
- ・脾臓がん
- <症状>
- ・吐き気
- ・下痢
- ・肝臓がん:黄疸
- ・脾臓がん:破裂
- 肝臓や脾臓は異常があっても症状が出にくいのが特徴です。
- 初期症状は吐き気や下痢などはっきりとしないため、検査を受けて発見したときには大きくなっている場合もあります。
- 肝臓がんの場合の症状はひどくなれば肝機能低下による黄疸、脾臓の場合は破裂も考えられるため、少し気になるといった程度の症状でも診察を受けておくと安心です。
泌尿器のがん
泌尿器は腎臓や尿管、膀胱、尿道、前立腺の尿ができてから通る気管を指し、がんの種類と症状は以下のものがあります。
<泌尿器のがんの種類>
- ・腎臓がん
- ・腎臓リンパ腫
- ・膀胱がん
- ・前立腺がん
- <症状>
- ・頻尿
- ・血尿
- ・尿漏れ
- ・残尿感によるしぶり
- ・排尿時の疼痛
- 腎臓も初期は症状が出にくく気付きにくいため、発見時には大きくなっている可能性があります。
- 膀胱や前立腺に関しては普段の排尿の様子の観察が大切です。
呼吸器のがん
呼吸器は鼻から口頭、気管、肺を指し、それぞれのがんの種類と症状は以下のとおりです。
<呼吸器のがんの種類>
- ・肺がん
- ・組織球肉腫
- <症状>
- ・鼻:くしゃみや鼻水、鼻づまり、鼻血、顔面の変化
- ・肺:咳や痰、呼吸困難、胸水
- 鼻のがんの場合、最初は違和感によるくしゃみや鼻水などの症状が出ます。
大きくなると内側から皮膚を圧迫して顔相が変わってしまう場合もあるため、ショックを受ける飼い主さんも多いです。
肺がんの場合、肺に水が溜まってしまう胸水になる危険もあります。
胸水は水によって肺に空気が入るスペースがなくなってしまうため、非常に苦しいのが特徴です。
抜くための処置を行いますが、処置を行ったとしてもがんがある限り繰り返すため、胸水が溜まる度に処置を行うと犬の体力低下が心配されます。
胸部のがん
胸部は上記の肺に加え心臓や前胸部を指しています。
<胸部のがんの種類>
- ・血管肉腫
- ・大動脈体腫瘍
- ・中皮腫
- ・リンパ腫
- <症状>
- ・心タンポナーデ
- ・虚脱
- ・ショック
- ・呼吸困難
- ・咳
- 心タンポナーデとは心臓の周りに血液が溜ってしまう症状です。
- 心臓の動きが制限されることから突然の心停止を引き起こす場合もあり、緊急性の高い症状といえます。
生殖器のがん
生殖器はオスであれば精巣、メスであれば乳腺や卵巣、子宮を指します。
以下がそれぞれのがんの種類と症状です。
<生殖器のがんの種類>
- ・精巣腫瘍
- ・乳がん
- ・子宮がん
- ・卵巣がん
- <症状>
- ・乳がんの場合乳腺のしこり
- 精巣腫瘍の場合片方の精巣肥大
- 上記のうち精巣腫瘍や子宮がん、卵巣がんに関しては去勢避妊手術で予防ができます。
特に早めの避妊手術は将来の乳がん発生の予防にも効果的です。
飼い主さんの考え方にもよりますが、子供をつくる予定がなければがん予防の観点からも手術を検討しましょう。
血液のがん
血液のがんの種類と症状は以下のものがあります。
<血液のがんの種類>
- リンパ腫
- 白血病
- <症状>
- リンパ節のがん:リンパ節の腫れ
- 食欲低下
- 元気消失
- リンパ腫の場合はリンパ節の腫れがみられますが、白血病の場合は外見からは気付きにくく、血液検査で異常が出て発見する場合もあります。
- 食欲低下や元気消失など、調子が悪そうと思ったら早めに受診し、症状の理由を探りましょう。
犬ががんになる原因と予防方法
犬のがんの種類や症状について紹介しましたが、犬ががんになる原因は解明されていません。
人間と同じく高齢であればあるほど発生する確率が高くなっているため、獣医療の発展に伴うものと推測されています。
しかし多くのことはわかっていないため、これから原因の究明に期待が寄せられるところです。
予防方法も具体的には提示できませんが、いかに早く発見するかで今後の治療法が変わっていきます。
次にがんの早期発見についてのチェック項目を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
がんを早期発見するためには愛犬をよく観察することが大切
がんは早期発見が大切と述べましたが、普段から愛犬をよく観察することで気付きやすくなります。
「がんに気付いたときには取り返しのつかない状態まで進行していた」となってしまったら悲しいですよね。
そうならないためにも、以下の項目をもとに愛犬を注意深く観察しましょう。
<目>
- ・うつろではないか
- ・白目が黄ばんでないか
- ・目やにがないか
- ・かゆがっている様子はないか
- ・目の周辺にできものがないか
- ・眼球の大きさはいつもと変わらないか
<耳>
- ・周辺にできものはないか
- ・かゆがっていないか
- ・耳や頭を振っていないか
- ・耳だれなどは出ていないか
<鼻>
- ・鼻周辺にできものはないか
- ・鼻水、鼻血、くしゃみはでていないか
- ・呼吸状態は正常化
- ・正面や横から見て歪んでいないか
<口>
- ・口臭はないか
- ・歯茎や歯、舌は健康なピンク色か
- ・歯周病はないか
- ・できものやただれはないか
- ・よだれが出ていないか
<全身>
- ・しこり、炎症、腫れはないか
- ・出血している箇所はないか
- ・触って痛がる箇所はないか
- ・歩き方は正常か
<全身状態>
- ・食欲はあるか
- ・元気はあるか
- ・食べづらそうにしていないか
- ・呼吸は普段と変わらないか
- ・咳や息切れがないか
- ・尿や便は正常に出ているか
上記の項目に気付くには、普段から愛犬とスキンシップを行い健康な状態を把握しておくことが大切です。
若いうちは1年に1度、シニアになったら半年に1度は健康診断を受けるとよいでしょう。
犬用の健康診断としてさまざまな検査をまとめて扱っている病院もありますので、利用を検討してみてください。
犬のがん治療の種類
がんが発見された場合、治療の種類としては以下のものがあります。
- 手術
- 抗がん剤
- 放射線
- 再生医療
- 緩和ケア
順番に見ていきましょう。
手術(外科療法)
がんを発見したら、早期の場合は手術で切り取ってしまうことが一般的です。
がん周辺への細胞転移を考え手術範囲は大きくなりますが、特に発生初期の場合、手術のみで完治できる場合もあります。
手術後は切り取ったがんを外部の検査機関に送り、がんの種類を診断し、がんの種類や経過によって放射線治療や化学療法を選択します。
抗がん剤(薬物療法、化学療法)
抗がん剤は、投与することでがん細胞を小さくして消滅させる治療方法です。
手術後の再発防止や、大きくなって手術が適用されない場合のがんの成長抑制にも使用されます。
抗がん剤は細胞にダメージを与えるため副作用が大きく、高額のうえ治療にも時間を要します。
犬自身も飼い主さんも負担が大きいものとなっていくため覚悟が必要です。
放射線(放射線療法)
抗がん剤は投与することで全身の細胞にダメージを与える治療法ですが、放射線はがんができた部分にだけ当てて治療していきます。
手術が決まり、当日までにがんを小さくしておきたい場合や、術後の再発予防に使われますが、完治を目指すものではありません。
完治を望むのであれば放射線治療だけでは難しく、抗がん剤の選択が考えられます。
再生医療
再生医療は犬がもっている修復機能や自己治癒力を利用し、病気を治していく方法です。
具体的には健康な犬の脂肪組織を採取し細胞培養を行い、増えた細胞をがんに罹った犬に投与し、細胞の修復を図っていきます。
再生医療はまだ研究段階のものではありますが、この先の医療の発達に伴い、期待が寄せられる治療法といえるでしょう。
緩和ケア
緩和ケアは手術が難しいほどがんが進行している場合や積極的な治療を選択しないと決めた場合、治療の術がない場合などに選択されます。
痛みや苦しみをとり除き、生活の質を保つことを目的とする治療方法です。
飼い主さんと犬の負担を減らし、穏やかに日々を過ごしていけるようケアすることが大切といえます。
がんになったときの検査から治療までの流れ
がんになった場合の検査や治療は、多くの場合以下の流れで行われます。
- 症状の発見、動物病院受診
- 問診
- 全身状態や転移の把握(血液検査、レントゲン、エコーなど)
- 治療法の選択(手術、抗がん剤など)
- 抗がん剤、放射線治療など
がん発見時の進行具合、飼い主さんの考え方や獣医師の判断により、検査や治療にはさまざまな選択肢があります。
がんの治療には犬自身はもちろん、飼い主さんにもお金や時間の負担がかかります。
年齢やがんの状態によっては緩和ケアも視野に入れ、愛犬と後悔のない余生を過ごすことが大切です。
まとめ
今回は犬のがんの症状や早期のチェック項目、実際の検査から治療までの流れを解説しました。
がんは犬の高齢化に伴い身体のさまざまな箇所で発見されますが、いまだ原因ははっきりとしていません。
具体的な予防方法もないため、早期発見が大切です。がんのできた場所や進行具合によって完治が難しい場合もあります。
愛犬に寄り添い生活の質を保っていくことを目指す緩和ケアも視野に入れ、自分たちにとっての穏やかな生活について考えてみましょう。
この記事のライター
nana
泳ぎも走りも得意な運動神経抜群のゴールデンレトリバーと暮らしています!今は愛犬とタンデムサーフィンの練習中。いつまでもアクティブに楽しく過ごせるような情報を発信していきます。
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