【獣医師監修】放っておくと危険な犬の会陰ヘルニア(えいんへるにあ)という病気について|原因や治療法を解説します
皆さんは、会陰ヘルニア(えいんへるにあ)という病気をご存知でしょうか?排便や排尿が困難となって犬が重篤な状態に陥る危険な病気のひとつで、まれに人間でも罹患することがあります。
そのまま放置しておくと命にかかわることもあり、早急に手術も含めた治療が必要です。今回は会陰ヘルニアという病気のメカニズムを解説すると共に、その予防法や治療法などについても紹介します。
犬の「会陰ヘルニア」とは
会陰部(えいんぶ)とは、肛門と生殖器の出口付近のことを指し、会陰部の筋肉が何らかの原因で委縮すると、隙間ができてしまいます。
会陰ヘルニアでは、その隙間から直腸、膀胱、脂肪などが飛び出してしまい、肉眼上はまるで肛門の周りがパンパンに大きく膨れたように見えます。そのままの状態で放置してしまうと、激しい痛みを伴うと共に自力での排尿・排便が困難となって、内臓機能にも異常を起こし、尿毒症など重篤な症状となる危険性があります。
会陰ヘルニアの初期症状|排泄時に痛みを伴う
犬の会陰ヘルニアの場合、初期の段階では排便時間が長くなったり、しぶりが出たりして、徐々に病状が進行していきます。
次第にきばっても便が出ず、激しい痛みを伴うことになり、肛門の両側または片側が腫れあがっていきます。 また、膀胱が反転し位置がおかしくなるために排尿も困難となり、尿が溜まってしまうことになります。
他の犬や人間にうつる?
ウイルス性や細菌性の病気のように伝染する疾患ではありませんので、他の犬や人間にうつる心配はありません。
犬の会陰ヘルニアは何が原因?
会陰ヘルニアにかかる犬は圧倒的にオスが多いとされています。特に、ホルモンバランスの関係から去勢手術を行っていないオスに起こりやすい傾向があります。その原因はどこにあるのかを解説していきましょう。
オスのホルモン「アンドロゲン」が原因?
犬の会陰ヘルニアの原因は、まだ「解明されていない」というのが実情です。しかし、オスのホルモンである「アンドロゲン」が深く関わっているということは間違いないようです。
アンドロゲンは骨や筋肉、生殖器などの形成に大きく関係があるため、筋肉増強ホルモンとも呼ばれています。筋肉量の維持に役立つ一方で、何らかの原因でアンドロゲンの分泌異常が起こり、結果的に会陰部の筋肉を委縮させてしまうということが考えられます。
無理な腹圧が掛かる
排便の際に無理にいきんだり、激しく吠えるなどして腹腔に無理な圧力が掛かり、会陰ヘルニアになる場合もあります。ごくまれにメスに発症してしまう場合は、そういった原因が考えられます。
「会陰ヘルニア」にかかりやすい犬種や年齢
会陰ヘルニアにかかりやすい犬種としては、ウェルシュ・コーギー、トイプードル、ミニチュア・ダックスフンド、ボストン・テリア、マルチーズなどが挙げられます。
かかりやすい年齢としては、特にオス(特に未去勢オス)の中年期~シニア期にかけてが最も多いとされています。
会陰ヘルニアの主な治療方法
排便しやすいように飼い主さんが姿勢を支えたり、便を柔らかくする内服薬を飲ませるなど、症状を和らげることはできますが、根本的な治癒には至りません。外科手術によってヘルニア部を整復し、治療することが最も重要だと言えるでしょう。
まず直腸検査などによって脱出部の蛇行や拡張の具合を診断し、その上で術式を決定します。切開してからヘルニアでできた穴へアプローチし、飛び出した部分を腹腔内へ納めます。厚みのある筋肉組織を繋いで縫い合わせるか、無理な場合は人工物を使って縫合します。
会陰ヘルニアの治療にかかる費用
動物病院によって費用に幅はありますが、手術費としては3~4万円前後が平均的で、術前検査代や全身麻酔代、入院費、手術後の通院費などを合わせると、おおよそ8~10万円程度が相場と考えられます。
また再発防止のために去勢手術も並行して行うことが多いのですが、その分費用が高くなる可能性はあります。
会陰ヘルニアを予防する方法はある?
発症するほとんどの場合がオスであること、またオスのホルモン「アンドロゲン」に起因していることなどから考えれば、去勢することが最も有効な予防法となります。去勢は若年であるほど望ましく、生殖器系疾患を予防するといった観点でも、去勢手術は推奨されています。
再発する可能性は?
手術が成功して回復したとしても、同時に去勢を行わなければ再発の可能性はあります。再びアンドロゲンの分泌異常が起これば筋肉が萎縮して薄くなり、同じ状況になりかねないからです。去勢によって疾患の根本原因を断ち切ることが重要となります。
また便がかたくなったりして、無理にいきむのを防ぐために食餌内容に配慮する必要があるでしょう。あえて食物繊維や善玉菌が含まれているフードを与えるなどして腸内環境を整えることが大事ですね。
予防措置の検討も視野に入れてみて
会陰ヘルニアのように事前に予防できる疾患については、飼い主さんの考え方にもよりますが、去勢手術を適切な時期に行うことなどで予防できる部分もあります。
また何よりも普段から排便の様子や、便の状態などをきちんと観察しておくことが重要です。異常に排便時間が長かったり、下痢が続くようでしたら獣医師の診察を受けるようにしましょう。会陰ヘルニアを発症したとしても、適切な治療によって必ず治る疾患ですから、慌てずに愛犬とじっくり向き合って治療していきましょう。
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この記事のライター
choco
シェルティとの生活に憧れる社会人です。みなさんの愛犬との暮らしがより豊かになるような情報を発信できたら、と思っています!
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