嗅覚に長けてる獣猟犬のセントハウンドについて解説!特徴や生態、日本のハウンド犬など
嗅覚を使うセント・ハウンドを紹介しよう。日本におけるシカやイノシシ猟の現役の主役、大物猟の猟犬界の真打ちの登場だ。
セント・ハウンドの専門は、嗅ぎ回ること
世界的に有名なセント・ハウンドといえば、スヌーピー(だと思う)。スヌーピーはビーグルだ。マイペースで小さいことは気にしない。スヌーピーの名前の語源、snoopは「嗅ぎ回る」「探る」「コソコソ詮索する」。スヌーピーはクンクン犬であるセント・ハウンドにふさわしい命名である。
FCI (国際畜犬連盟)のカテゴリーで、Group 6:Scent hounds and related breeds(嗅覚ハウンドとその関連犬種)の犬たちがセント・ハウンド。ビーグルやブラッド・ハウンドなどだ。また1犬種なのに、単独で1グループとなっているダックスフント、Group 4:Dachshundsもセント・ハウンドである。日本では愛玩犬として大流行してしまったが、原産国ドイツでは今も現役の猟犬だ。ダックスフントには、大きい順にスタンダード・ダックス、ミニチュア・ダックス、カニーンヘン・ダックスと大きさが3種類ある。日本では、小さい犬を物珍しがって、抱っこ犬として高値で取引されがちだが、カニーンヘンは抱っこしやすくするために小さく改良されたのではない。カニーンヘンはドイツ語で「ウサギ」の意味で、文字通りウサギの巣穴に入り込みやすいように小型化された。そのため、小さくても立派な猟犬なのである。スタンダード・ダックスと気質は同じだ(正しい繁殖ラインならば)。カニーンヘンを小さいから散歩は必要ない、などと思うのは大きな勘違いである。
臭いを追跡するのに適した体と気質
セント・ハウンドは、たいてい大きな垂れ耳、骨太な頑丈そうな骨格、長めのしっぽをしている。一説によると、大きな垂れ耳は、獣の足跡や血痕のニオイが風で飛んでしまわぬように集音器ならぬ「集臭器」のような役割をしているらしい。骨太でがっしりとした体格や四肢は、獣のニオイの痕跡を頼りに、何十kmもターゲットを追跡するためにある。サイト・ハウンドのような足の速さは、セント・ハウンドには求められていない。ただひたすらにクンクンとニオイをとり、追いかけるタフさ、頑強さ、集中力、粘着質かと思われるくらいの執拗さがセント・ハウンドの専売特許とも言えるであろう。そして長めのしっぽをフリフリしながら、ニオイをとって進む。ビーグルやイングリッシュ・フォックスハウンドなどしっぽの先が白いものが多いが、草や藪の中で犬の姿が見えなくても、先っぽの白は狩り場の中でよく目立ち、猟師にとって犬の居場所が判別しやすいという利点がある。
実猟系のハウンドはタフでマイペース!
獣猟犬というのは、鳥猟犬(バードドッグ)や、鳥と獣を両方やるにしてもハンターとの協力体制が不可欠なHPR犬種(ジャーマン・ポインターなど)と比べて、自分の牙で相手に食らいつくことも辞さない荒々しさを持つ。ハイパワーでスタミナがあり、犬種にもよるが相手に食らいつきやすいアゴも持っている。イノシシやクマなどに反撃されればこちらも命を落としかねないから、それだけ勇気とタフさが必要なのだ。最後は猟師にライフルで仕留めてもらうので人間との信頼関係は必要だが、それ以前の、嗅覚を使っての探索、獣の足跡のニオイを嗅覚で追跡、イノシシが寝床に逃げ込んだら吠えて(ハンターが到着するまで)その場所に留めておくなどは、自分の意志で、自分の本能で行う。だから、サイト・ハウンドと同様に独立心があり、頑固でマイペース、自我がある。大きな獲物と対峙するのはやはり命がけ。飼い主より自分の判断力を信じるのは当たり前だ。
だからハウンドの場合、家庭犬としてトレーニングするのは素人にとって難しい。頑固で、マイペースで、我が道をゆく。多少のことでは動じない犬だから、飼い主も忍耐強く付き合ってやらないといけない。また、特に大物猟に使う猟犬種は、ターゲットが四つ足専門だからか、他の犬に対しても吠えつく犬がわりといる。ただビーグルでもプロットでも、パック(団体戦)で猟をする犬種が多いので、そういうハンティング・スタイルの犬なら同僚との協調性はあるはず。だから幸か不幸か、アメリカン・ビーグルは実験動物として選ばれることが多い。集団生活ができ、図太く(敏感なHPR犬種の反対)、ストレスに強く(我慢強い)、健康体で頑丈、繁殖能力も高いからだとされる。よって、他の犬と喧嘩しやすいハウンドがいるとすれば、それは仲間意識(自分の家族、同居犬を守る気持ち)が強く、テリトリー意識が強いゆえのことなのかもしれない。ハウンドにはハウンドの習性、クセがある。「猟犬は頭が悪い」「言うことを聞かない」「呼び戻しができない」などと悪口を言われることもあるが、それはあまりに日本人の人間目線な言い分ではないか。ハウンドを理解すれば、そんなことを言う人は減るだろう。
日本ではハウンド・ミックスが多い
日本で実猟犬として実働している犬は、そのほかにブルーチック・クーンハウンドも聞くが、この犬種は、FCI(すなわちその傘下のJKCでも)公認犬種ではない。アメリカ原産の犬で、AKC(アメリカン・ケネルクラブ)では公認されている。通称ウォーカー・ハウンド(ツリーイング・ウォーカー・クーンハウンド)も日本にいると聞いた。ウォーカーも同じくアメリカ原産のハウンドで、こちらもFCIには公認されていない。FCIに公認されているアメリカ原産のハウンドは、アメリカン・フォックスハウンドとブラック・アンド・タン・クーンハウンドのみ。ブルーチックやウォーカーは、これらをベースに、アメリカの獲物や生態系に合うように改良された犬だ。しかし、ここで、はたと気づいた。なんとプロット・ハウンドもFCI、JKCでは未公認犬種ではないか。調べるとAKCではプロットという名前であった。
こういうことから察するに、日本のハウンドの歴史はショードッグたちとは全く別で、狩猟愛好家が独自にアメリカから日本に犬を輸入したものだと推察できる。現在、日本にいるのはその末裔だ(最近輸入した犬もいるかもしれないが)。現役猟師に聞いたところ、おそらくプロットは約30年前には日本に入ってきていたし、ブルーチックもそれくらい前にはもういたらしい。最初に輸入した犬には血統書があるだろうが、それ以降は猟の上手い犬を実力主義で繁殖に使うから、いろいろな犬が混じり合い、ほとんどが「ハウンド・ミックス」「プロット・ミックス」。純然たる血統書付きの純血種はあまりいないと思われる。
また日本に、ヨーロッパ大陸系のハウンド、たとえばフランスのグリフォン・ブルー・ド・ガスコーニュやボルスレーヌ(けっこうフランスには多数のセント・ハウンド犬種がいる)、イタリアのセグージョ・イタリアーノ(ヨーロッパ産のブラッケ<ブラックハウンド>のほとんどはこの犬から派生したものとされる)が入ってきていないのは、英語圏ではないから、輸入手続きが難しかったからなのだろうか。
さて、そうした日本にいる実猟ハウンドたちは昔からの慣習で、わざわざ犬籍登録しない(少なくともプロット、ブルーチック、ウォーカーはJKCでは未公認犬種のため登録はできない。血統書も発行されない)。どっちみち純血種である(=スタンダードを守る)ことよりも、猟欲の高い、猟犬として「使える」犬を作出することの方が重要。なので「F1」と言われる1代雑種をわざと作ることも多い。ニオイを見つけるとスイッチが入り、無我夢中になって迷子になりやすい犬にならないように、わざとプロットに、ビーグルやポインター、和犬を交配させることも多いそうだ。彼らはあまりレンジ(探索範囲)が広くないし、耳もいいから戻りがよくなると言う。
とにかく実猟犬の繁殖は、今も猟師たちの間で脈々と行われている。それをバックヤード・ブリーダーと呼んでいいものか、判断がつかない。犬を飼う、犬を養う、犬に期待する目的が明らかに違うからだ。
「森の声楽家」野太い声が商売道具!
とは言うものの、猟犬種の猟欲を満たすことは、犬の心身の健全さを守ることになる。だから一概に、猟犬は不幸とは言えない。むしろ彼らは狩猟犬として正しく生きている。
ハウンドを使った猟にはやり方がいろいろ。5人くらいのパーティで3頭の犬、というグループもいれば、20人近くで15頭くらいの犬を使う大がかりなグループもいる。かたやYouTubeでは、1人と1頭というパターンもあった。馬でキツネ狩りをするイギリスの貴族のハンティングと、山深いところで行う日本の狩猟は全く違う。
追い込み方もいろいろ。呼び方も地方や猟師により少々違うが、たとえば犬がイノシシのニオイを追跡し、だいたいどのあたりにイノシシが出てくるか猟師が予測して待ち受ける「追跡猟」、イノシシの寝床まで犬が追いかけて、猟師が来るまで吠えて留めておく「寝床猟(床猟)」、シカやイノシシなどが生息する狩り場を多人数で四方から取り囲み、犬の吠え声と人間の「勢子」(獣を追い詰めたり、逃げるのを防いだりする人夫)が囲いを縮めていき、獲物を追いつめて射止める大規模な「巻き狩り猟」などがある。
ハウンドの吠え声は、状況に応じて何パターンもあるそうだ。猟師はその声を聞くだけで、今、犬がどういう状態にあるのかが手に取るようにわかるという(無線機越しに声を聞き、判断し、猟師が移動することも多い)。たとえば......
●「香鳴き」(かなき)
地面のニオイを嗅いで「獣のニオイを見つけたぞ!」というときの吠え声。移動しながら吠え、だんだんテンポが速くなる。
●「床吠え」または「たて吠え」
寝床にいるイノシシを発見して起こすときの吠え声。同じ位置ですごく大きな声で吠える(それでもイノシシは犬が吠えたくらいでは動じないのもいる)。
●「追い鳴き」
ようやくイノシシが起きて、逃げ出したら、追いかけながら大きな声で吠える声。「床吠え」と「追い鳴き」はどちらも大きな吠え声だが、テンポが全然違う。
ただ、中には鳴けない、鳴かない猟犬もいる。イノシシにビビってしまい鳴けないことが多いが、香鳴きにしろなんにしろ鳴かない犬は評価できないという。何をしているのか、どこにいるのか、猟師に伝わらないからだ。本来のナイーブな気質を克服し、鳴ける犬になるためには、人間が訓練するというより、先輩犬の姿を見て、犬が犬から習うしかないらしい。飼い主(猟師)にできることは、犬が犬に教える環境を与えてあげることだと言う。
このように、犬のことを飼い主(猟師)が理解していないと猟はできない。ハウンドと猟師は、ちゃんとチームプレーをしているのだ。そしてこの山野をよく通る野太い吠え声こそ、ハウンドの最大の武器であり、魅力。欧米では、ビーグルやブラッド・ハウンドらのセント・ハウンドが、ハンターから「森の声楽家」「森のトランペッター」などと褒め称えられる。しかし日本の住宅地では、鳴き声がうるさいと言われてしまう。元来、ハウンドは、吠えることが仕事なのだ(だから吠えられて困る住環境の人は、セント・ハウンドを選ぶのは避けた方がよいと思う)。
噛み止めさせる狩猟方法は違法
最後に「獣猟犬は獰猛だ、危険だ」と言われる件について述べておきたい。たしかに数年に1度くらい「猟犬が人に大怪我を負わせた」とか「噛み殺した」という、一般の犬好きからしてみれば「どうしてそんなことになってしまったのか」と悲しくなるニュースが流れることがある。
しかし、1896年(明治28年)成立の「狩猟法」から幾度の名称変更や法改正を経て、2014年に成立した「鳥獣保護管理法」を調べてみると、犬が自らイノシシらの野生動物に噛みついたり、噛み殺して仕留めたりする狩猟はしてはならないと明記してある。法律が定める「禁止猟法」には14項目あるが、そのうち「犬に咬みつかせることのみにより捕獲等をする方法又は犬に咬みつかせて狩猟鳥獣の動きを止め若しくは鈍らせ、法定猟法以外で捕獲等をする方法」は、鳥獣の保護に支障を及ぼすおそれのあるため、はっきり禁止と書いてある。
そもそも先に書いた「追跡猟」「寝床猟(床猟)」「巻き狩り猟」ではどれもトドメを指すのは猟師であり、鉄砲である。犬に噛み止めさせ、ナイフで猟師が心臓などを刺して狩る方法はやってはいけない。言うならばハウンドは「探知役」および「勢子」役にすぎず、自ら噛んではいけないということだ。
たしかに昔は、日本でも噛み止め猟は行われていた。また大物獣を目の前にして興奮して、イノシシなどに噛みついてしまう犬は現代でもいる。特にドゴ・アルヘンティーノや一部の和犬はそういうことをしやすい。しかしそうした猟法は現代の日本では禁止だから、噛ませないよう訓練すれば、咬傷事故はゼロにはできなくとも大幅に減らせるのではないだろうか。さらには犬の命を危険に晒したり、大怪我を負わせたりすることも減るはずだ。「獣猟犬は危険だ」とか「狩猟は犬を傷つける虐待行為だ」と言われることがあるが、それは猟師が本来のルールを守っていれば避けられる事象なのである。猟師の倫理観、法遵守が問われている。
この記事のライター
nao
「愛犬の気持ちを理解したい」「寄り添ったコミュニケーションを取りたい」という思いからドッグライターとして犬に関する知識を学び、発信しています。愛犬の笑顔を守るために、そして同じ思いを抱く飼い主さんのために、有益な情報を発信していけたらと思っています。
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