人のインフルエンザは犬にうつる?海外では報告事例もある犬インフルエンザについても解説
寒くなり空気が乾燥してくると流行しだすのがインフルエンザですよね。高熱や倦怠感、関節痛などのつらい症状が続くのでなるべくかかりたくない病気です。人間にとってつらく苦しいインフルエンザですが、動物と暮らしている場合、近くにいたら愛犬にもうつってしまうのではないかと心配になったことはありませんか?ヒトのインフルエンザは犬にもうつるのでしょうか?今回はそんな疑問と犬のインフルエンザについて調べてみました。
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人間のインフルエンザは犬にうつる?
インフルエンザはインフルエンザウイルスに感染することで発症する病気で、38℃以上の発熱や頭痛、倦怠感、咳、鼻水、喉の痛みのほか、関節痛、筋肉痛などの症状が見られます。人間に感染するインフルエンザウイルスの種類はA・B・C型の3種類で、主に冬に流行するのがA型とB型です。これら2つは季節性インフルエンザと言われ、予防接種を受けることで発症のリスクを下げたり、万が一感染した場合の症状を軽くする効果が見込めます。
手洗い・うがいを徹底したり、予防接種を受けても発症することのあるインフルエンザ。感染力が強いため、自宅にペットがいる方はインフルエンザがうつるのではないかと心配になったことがある方も多いのではないでしょうか。
インターネット上のサイトを見てみると、「鳥や豚、馬などのインフルエンザウイルスが犬に感染することはありますが、人間と犬ではインフルエンザウイルスが結合する受容体(細胞表面分子)が異なることから、人間のインフルエンザウイルスは犬にはうつらない(うつる可能性は極めて低い)」と言われることが一般的です。(とはいえ、インフルエンザウイルスの突然変異により今後感染する可能性があるとは指摘されています。)
しかし、日本獣医師学会の会誌を見てみると、人の季節性インフルエンザウイルスが犬へ感染した事例が1970年代から示されていると記載されています。ただし、犬におけるインフルエンザの集団発生例の報告はないようです。
その一方で、中国とアメリカでは、2009年に世界中で大流行した人間の新型インフルエンザA(H1N1)が犬へ感染したという報告もあります。アメリカの症例ではインフルエンザにかかった飼い主から犬に感染したと考えられており、呼吸器症状が見られ、肺炎を引き起こしたものの、治療により回復しました。
日本では血清疫学調査により、新型インフルエンザA(H1N1)とインフルエンザA型(H3N2人ウイルス)、インフルエンザB型に対する特異抗体が検出されたことから、犬が過去に感染していたのではないかと考えられています。しかし、実際に症状を伴う発症例の記録はないとのことです。
つまり、日本では人間のインフルエンザウイルスが犬への感染したと思われる例はありますが、発症した事例はありません。
【参考】堀本泰介. 「犬インフルエンザ」, 日本獣医師会雑誌, 第70巻, 165~169ページ, 2017年
犬のインフルエンザも存在する
動物のインフルエンザと聞くと鳥での発症をよく耳にしますが、犬にもインフルエンザの発症例があります。
1番初めに犬インフルエンザの感染が確認されたのが2004年のフロリダ州で、ドッグレース用のグレイハウンド22頭に高熱や咳などの症状が見られ、14頭は回復したものの、8頭は出血性肺炎で死亡しました。
このウイルスはH3N8型で、馬インフルエンザウイルスと類似しており、突然変異により犬に感染したのではないかと考えられています。その後、このH3N8ウイルスは犬から犬へと感染するウイルスに進化し、アメリカの各地で流行、定着します。
2007年には韓国でH3N2型のウイルスの犬への感染が起こりました。これは鳥インフルエンザウイルスに由来するもので、呼吸器症状や発熱のほか、重度の気管支炎となり死亡したケースもあります。その後、中国南部やタイでの感染報告もあるようです。このウイルスは猫にも感染して発症することが報告されています。
2015年、シカゴ近郊で1000頭をこえる犬の呼吸器疾患が発生し、当初はH3N8犬ウイルスの感染が疑われましたが、解析した結果、主にアジアで流行していたH3N2犬ウイルスの感染によるものだと判明しています。アメリカではH3N8犬ウイルスに続いて、H3N2犬ウイルスも国内に拡大しました。
今現在、日本国内では犬のインフルエンザの発症報告例はありません。しかし、海外では多々感染報告があり、日々さまざまな人や動物(※)、ものが行き来している状況下であるため、今後いつ日本で流行してもおかしくない状況となっています。
※輸入が禁止、制限されている動物もいます
犬インフルエンザの主な症状
主な症状は、咳やくしゃみ、鼻水、発熱、倦怠感、食欲不振など、人間と同じような症状が見られるようです。犬種、年齢に関わらず、すべての犬が感染する可能性があり、感染した場合には80%の犬が臨床症状を示します。
基本的に症状は軽く、合併症がなければ2~3週間で軽快するとされていますが、細菌の二次感染やウイルスの増殖により重症化すると40℃以上の高熱や呼吸数の増加、努力呼吸が見られ、肺炎を起こし死亡してしまうケースもあります。
犬インフルエンザの感染経路は?
感染した犬の咳やくしゃみによる飛沫感染や、感染した犬と一緒に遊ぶ、フードボウル・ウォーターボトルを共有する、おもちゃなどに接触するといった接触感染があります。
感染すると、2~4日の潜伏期間を経て発症します。最もウイルスが排出されるのは発症時ですが、潜伏期間中もウイルスは排出され、発症後も排出量は減っていくものの、1週間ほどは排出するようです。
犬のインフルエンザが人にうつることはある?
犬のインフルエンザが人に感染した例は今のところありません。しかし、2009年に世界中で流行した新型インフルエンザは豚由来のウイルスが原因でした。そのため、ウイルスの変異により犬のインフルエンザが今後、人にうつるケースが出てくる可能性も否定はできない状況です。
日本では発症事例はないけれど
日本では人のインフルエンザが犬に感染したことはあると考えられているものの、発症した事例はないとされています。人から犬への感染力は低いという説もあるので、飼い主さんが万が一インフルエンザにかかってしまっても、普段通りのお世話により愛犬が発症してしまうという恐れは低いといえるかもしれません。とはいえ、海外では飼い主さんのインフルエンザが飼い犬にうつり呼吸器症状が現れたという報告もあるので、油断は禁物です。
また、犬にもインフルエンザがあります。犬インフルエンザは今現在日本では発生していませんが、日本での発生事例がないことから犬インフルエンザに対する効果的なワクチンは日本にはありません。しかし、今後、ウイルスが国内に侵入してくる懸念は十分にあるので、犬インフルエンザが流行している場所へ訪れる機会がある人や近所に渡り鳥がやってくる場所があるといった場合には注意するようにしましょう。
【参考】丸山総一. 犬及び猫のインフルエンザ-公衆衛生委員会(日本獣医師会公衆衛生部会常設委員会)の見解-日本獣医師会:会報
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この記事のライター
choco
シェルティとの生活に憧れる社会人です。みなさんの愛犬との暮らしがより豊かになるような情報を発信できたら、と思っています!
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