日本犬の祖先は、縄文人とともに南方から入ってきたグループと、弥生と大陸を渡っていたグループとに大別されると言われています。

昭和50年代に行われた岐阜大学と名古屋大学の研究結果によると、山陰柴犬は後者のグループに分類され、韓国の珍島や済州島の犬と近い関係にあることがわかりました。一般的な柴犬である信州柴犬は、前者の南方ルートのグループに分類されるので、山陰柴犬とはルーツも特徴も違いがあると考えられてます。

 明治時代に入り、海外からたくさんの物が日本に入ってくるようになると、洋犬も多く連れて来られるようになりました。そして、日本犬と洋犬との交配も盛んに行われ、一時期は日本犬(柴犬・紀州犬・四国犬・北海道犬・甲斐犬・秋田犬)が絶滅寸前にまで追い込まれる自体にまで陥りました。そうした事態を重く見て昭和初期には、日本犬は天然記念物に指定され、その保存が重視されるようになったのです。 

 日本犬の数の減少は、山陰地方にも同じように襲いかかります。それを危惧した鳥取県の尾崎益三氏は、鳥取や山陰地方を歩き回り、猟犬として活躍していた良質な地犬を借り受け、自邸の犬舎で繁殖と固定に取り組みました。尾崎氏が好んだ因幡犬の「リキ号」の耳の形は特徴的で、今の山陰柴犬の耳の形の基になっていると言われています。 

 山陰柴犬の性格は、柴犬の大きな特徴である飼い主さんに従順という部分はそのままに、物静かで落ち着きがあるのが特徴です。うれしい時もシッポを数回振る程度で、感情表現も実に控えめ。愛犬には全力で愛情を表現してほしいという飼い主さんには、ちょっと物足りないと感じられるかもしれません。

物静かと表現されるように無駄吠えも少なく、吠える時には甲高い声ではなく、低く力強い声で吠えるのも山陰柴犬の特徴と言えます。

 犬は飼い主に似るとよく言われますが、犬種の特徴と、口数が少なく忍耐強い山陰地方の人たちの特徴が似ているというのも、この地方で山陰柴犬がずっと大切にされてきた証と言えるかもしれません。 

 山陰柴犬の特徴として、顔の小ささや体の細さが挙げられます。その上筋肉質なので、いわゆる柴犬界の「細マッチョモデル体形」と言えるでしょう。

また、シッポも柴犬特有のクルンと巻いた巻尾ではなく「差し尾」と呼ばれる、ひらがなの「つ」のような形のシッポの出現率が高く、巻いているコでも緩い巻尾なのが特徴です。

さらに先ほどお伝えした通り、山陰柴犬の耳にも特徴があります。ピンと立った耳は顔の幅から外には出ないようなつき方をしています。

毛色は赤（茶色のこと）のみでやや淡い色のコが多く、白に近い「淡赤（うすあか）」と呼ばれる色のコも稀に出現しますが、その数は極めて少ないようです。

 山陰柴犬育成会では、現在も血統を守る活動がなされています。

血統の管理はもちろん、鑑賞会や研修会、子犬のあっせんなど血統を守る上でとても重要な役割を担っています。

山陰柴犬は一度の出産で生まれる子犬の数が少なく、なかなか数が増えないという問題もあり、交配の補助や代行などのお手伝いも大きな活動の1つになっています。

 山陰柴犬は、ペットショップなどでは販売されていません。山陰柴犬を新たに迎えるには、山陰柴犬育成会から直接譲り受けるという方法しかありません。飼いたいと思ったらまずは「山陰柴犬育成会」へご相談ください。

ただし、保存伝承の目的から室内飼育や避妊去勢手術を希望する方にはお譲りいただけないこともあるので、ご注意ください。

 同じ柴犬の中でも性格や特徴、辿ってきた歴史も違う山陰柴犬。終戦時にはわずか20頭ほどしか残らなかったと言われていますが、現在は育成会やその周りの方々の尽力により450頭ほどにまで増えています。

希少な柴犬をお探しの方は、山陰柴犬の保存活動を十分に理解した上で、活動に参加してみてはいかがでしょうか？