【獣医師監修】血管肉腫は大型犬がかかりやすい?発症の原因や治療法を解説します
悪性腫瘍は大型犬がかかる病気の中で上位を占めており、比較的多く見られるのが血管肉腫です。元気に過ごしていた犬が、ある日突然、余命宣告される血管肉腫。飼い主さんにとって、まさに青天の霹靂です。とても恐ろしいのは、かなり進行が早く転移率が高い悪性腫瘍であるということ。今回は、犬の命に関わる血管肉腫の症状、原因や治療法などについて解説します。
犬の血管肉腫という病気について
血管肉腫は、特に大型犬に多く発生する悪性の腫瘍です。血管肉腫の特徴は、血管の内側にある血管内皮細胞と呼ばれる細胞が腫瘍化することによって起こる悪性腫瘍です。血管が豊富な組織である脾臓、心臓(右心房)、肝臓、腹膜などに多く発生するとされていますが、皮膚や皮下組織に発生することもあります。進行が早い上に、血液の流れに沿って転移しやすい悪性度の高い腫瘍として知られています。
血管肉腫の初期症状
血管肉腫は、特に脾臓に発生することが特徴です。この病気の恐ろしいところは、目に見える症状が現れた時には、命にかかわる状態であることが多いこと。また、8歳以上のシニア犬に多く発症する病気であることから、元気が無くなったり、食欲が落ちたりなどの初期症状があっても、飼い主さんが気がつきにくい病気であることも特徴です。
脾臓に血管肉腫が発生した時の症状
比較的発生することが多く、脾臓に血管肉腫が発生した場合は、腫瘍化した部位が破裂するまで症状に気がつくこともなく普通に暮らしていることが多くあります。ある日突然、腫瘍の破裂が起き、脾臓などの臓器に出血が起こると、重度の貧血や突然倒れるなどの症状が出ます。出血量が非常に多い場合は、そのまま命を落としてしまうこともあります。
心臓に血管肉腫が発生した時の症状
心臓に発生する腫瘍の8割は、血管肉腫であると言われています。心臓に発生した場合は、激しい咳、呼吸困難、腹水がたまるなどの症状が現れます。お散歩中に歩かなくなる、息苦しそうにしている、お腹が張っているなどの症状が初期に現れますが、気がつきにくいことが特徴です。また、心臓と心臓を覆っている心のう膜の間に血が溜まることから心機能の低下や心不全、心タンポナーゼを起こすこともあり、最悪の場合には心臓破裂で命を落とすこともあります。
皮膚に血管肉腫が発生した時の症状
皮膚にできる血管肉腫は、皮膚の上から触るとコリコリとした固い腫瘤が皮下にできる皮下血管肉腫と、皮膚の真皮の部分にできる真皮血管肉腫の2種類があります。他の血管肉腫と比べると悪性度は低く、外科手術が適応となることもあります。
犬が血管肉腫を発症する原因とは
発症すると進行が早く転移も起こしやすい血管肉腫ですが、その発症の原因は解明されていません。
かかりやすい犬種や年齢
8歳以上の大型犬に発症することが多いと言われる血管肉腫ですが、若い年齢で発症する場合もあります。また、メスに比べてオスの方が発症率が高いとされていることが特徴です。好発犬種として、ジャーマン・シェパード、ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバー、ボクサー、ドーベルマン、グレートデンなどの大型犬の他にミニチュア・シュナウザーも発症が多い犬種として挙げられます。
血管肉腫の治療法は?
血管肉腫は、原因が解明されていないため、現在見られている症状や各種検査によって診断が確定されます。検査は、全身の状態を把握する血液検査、画像診断(レントゲン検査、心臓・腹部エコー検査)、心電図、腹水や胸水の検査などが行われます。血管肉腫の場合、心臓や脾臓に発生することが多いため、まずは第一優先で外科手術が選択されます。
外科手術を行うと予後が期待できる?
血管肉腫は、非常に脆い腫瘍であることから破裂する可能性が高く、まずは外科手術によって腫瘍の摘出が選択されます。しかし、転移が多く進行が早い血管肉腫では、手術によって完治することはほとんど望めず、また術後の生存率も低いとされています。そのため、進行を遅らせる、出血を止めることが主な目的として外科手術を行うことも多くありますが、余命は短いとされています。
抗がん剤での治療は有効?
残念ながら血管肉腫は、抗がん剤が効きにくい悪性腫瘍とされています。全身に転移が認められ、外科手術が難しい場合でも、抗がん剤治療での効果は期待できないのが現状です。また、抗がん剤治療は延命のために行われますが、抗がん剤を使用することによる消化器症状などの副作用が出る可能性があることと、どれだけ延命できるか不明であることから、獣医師によっては選択しないこともあります。
治療にかかる費用
血管肉腫を疑う場合、まずは全身の状態を調べる検査が行われます。検査の内容としては、血液検査、レントゲン検査、心臓・腹部超音波検査、腹水・胸水検査、心電図などが最初の診察で行われます。さらに、必要とあればCTやMRI検査、病理組織検査が行われます。検査費用は約1~3万円程度、腫瘍摘出費用が1回の手術が平均92,700円(アニコム損保調べ)、脾臓摘出費用は入院を含め約10~12万円が目安ですが、犬種、血管肉腫の状態や転移の状況、入院の有無によって動物病院ごとに検査日、治療費、入院費が異なります。
血管肉腫を予防する方法はある?
発症の原因が不明な血管肉腫は、予防ができない病気です。また、はっきりとわかる初期症状も発見しづらく、気がついた時には、手遅れであることも多い病気です。そのため、8歳を過ぎたら、毎年の定期的な健康診断を受けることや、消化の良い食餌を摂らせて健康的な食生活を送らせてあげることが大切です。
再発する可能性
転移が多い血管肉腫では、手術で取りきれたと考えられていても、目に見えないところに転移し再発する可能性もあります。また、残念ながら血管肉腫は、手術後の予後が悪い病気とされています。手術や抗がん剤治療を行っても完治することは望めず、すべて延命治療となってしまいます。ただし、皮膚に発症した血管肉腫は、外科手術によって完治するケースもあることから、紫外線に当たらないようにするなどのケアをすれば再発は予防できる可能性があります。
愛犬が血管肉腫を発症した際に飼い主さんができること
昨日まで元気だった愛犬がいきなり余命宣告されてしまうという、飼い主さんにとって大きなショックを受けるのがこの血管肉腫です。血管肉腫を宣告された多くの飼い主さんが「頭が真っ白になってしまい、どうすればいいのかわからなくなってしまった」という状態になってしまうのもよくわかります。しかし、一番辛いのは血管肉腫を患っている愛犬なのです。たとえ余命3ヶ月と獣医師から告げられてしまっても、食事療法などで延命したケースはたくさん報告されています。犬は、飼い主さんの気持ちを受け取ってしまう動物です。血管肉腫と診断が下ってしまったら、愛犬のQOLを考え今まで以上に愛情たっぷりに、楽しい毎日を送れるように工夫をしてあげてください。
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この記事のライター
choco
シェルティとの生活に憧れる社会人です。みなさんの愛犬との暮らしがより豊かになるような情報を発信できたら、と思っています!